「先輩、新しい写真、見せてください」


 春。新しいクラスでの自分の新しい立ち位置を探しながら過ごす時期に、それまでの僕の世界にはいなかった人物が現れた。


 彼女は真新しいセーラー服を身にまとい、肩に届きそうな黒髪を揺らす。


 インドアな僕とは違って、活発そうな少女の名は、古賀(こが)依澄(いずみ)


 数日前から、放課後になると僕のクラスに来ては、同じようなことを繰り返し言ってくる。


 古賀が“写真”という単語を発する度に、周りから鋭い視線を向けてくるのだけど、彼女はそれに気付いていないのか。


 僕は耐えられそうになくて、逃げるように引き出しに視線を落とし、教科書やノートを取り出しながら答える。


「……僕、写真はもう撮らないから」


 ふと視界に入った古賀は、口を尖らせている。


 彼女が僕の写真にこだわるのは、去年の文化祭で、僕の写真に一目惚れしたからだそうだ。


 聞いたとき、最初は嬉しかった。

 だけど、写真の感想繋がりで、その喜びを掻き消してしまうほどの言葉まで思い出してしまった。

 それはいわゆる、僕のトラウマというもの。

 だから、できることなら、僕は古賀と関わりたくなかった。