私は、彼女の言葉だけは素直に受け入れられる。


「ごめんね、詩織ちゃん」


 これ以上、咲楽と由紀にからかわれる前に、私は教室を出た。


 テスト終わりで浮かれるみんなの横をすり抜け、昇降口に向かう。


 先輩は先に着いていたらしい。


 靴に履き替え、前髪を整えてから、先輩に声をかける。


 私を見つけた夏川先輩は、相変わらず優しい眼をした。


「そういえば、バスケ部はよかったの?」


 校門をくぐると、先輩が心配そうな顔で、そんな質問をしてきた。


 私は、バスケ部に見学に行っておきながら、入部しなかったのだ。


 過去のことを知っているから、またなにか悩みがあるのかもしれないと、心配してくれたのだろう。


「いいんです。部活でがっつり練習するより、たまにみんなで楽しくバスケをするほうが、性に合ってたみたいなので」


 中学時代とは違う環境になれば、なにかが変わると思っていた。


 だけど、練習をすればするほど、楽しくなくなった。


 あのころより確実にいい環境で、人間関係もうまくいきそうだった。