「お疲れか?」


 午前中の授業が終わり、弁当を机の上に出しながらため息をつくと、佐伯が同情する顔で言った。


 きっと藍田さんのことだろう。


 この前、氷野がはっきりと言ったことで諦めてくれたと思っていた。


 でも、そんなことはなくて、藍田さんは僕を見かけるたびに声をかけてくるようになっていた。


「あの子、第二の古賀ちゃんって感じだな」
「……違うよ。全然、違う」


 しつこさで言ったら、同じかもしれない。


 でも、僕にとっては、全然違った。


 僕の世界を認めて、僕よりも大切にしてくれた古賀と、ただ自分を撮ってほしいだけの藍田さん。


 同じなわけがない。


「どうしたら諦めてくれるんだろう……」


 何度も断っているのに。


 僕の断り方が悪いのだろうか。


 これがもうしばらく続くのだと思うと、気が重くなる。


 ため息をつかずにはいられない。


「夏川栄治」


 弁当箱の蓋を開けたタイミングで、廊下から名前を呼ばれた。


 顔を上げると、氷野が、不機嫌なオーラを纏って立っている。


 どうして氷野がここにいるのかわからず戸惑っていると、氷野は手招きをして、僕を呼んだ。


「もう、氷野ちゃんが栄治の後輩に見えなくなってきた」
「僕も」


 苦笑しながら立ち上がり、氷野の元に行く。