狼上司と秘密の関係

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千明が指定してホテルはこの辺では最も高級なホテルで、最上階は平日でも一泊数十万円は取るらしい。
その中にあるレストランだから、これも目が飛び出てしまうほどの金額だ。

千明はイトコの結婚式で1度だけこのレストランの料理を食べたことがあった。
そのときは緊張してしまって味なんてよくわからなかったけれど、今日はもりもり食べる気満々だった。

真っ白な鏡台の前に座って丁寧にメークする。
有名ホテルだから、服にも気を使わないといけない。

あれこれ考えている間になんだか自分がデートにでも行くような気分になってきて苦笑した。
今日はデートじゃなくて、失恋しに行くようなものだ。

好きだという自覚はなかったものの、キスをされて拒絶しなかったということは、きっとそういうことなんだろう。
昨日のキスを思い出すとまた胸の奥がじんわりと熱を帯びてくる。

千明は左右に頭をふってその熱を追い払った。
「私は振られたんだから」

鏡の中の自分へ向けてそう言い聞かせる。
するとジワリと涙が滲んできて、視界がボヤけた。

恋愛と離れていたぶんだけ、失恋とも無縁な毎日を送っていたことに気がつく。