ルシアンがすべて打ち明け、アマリリスがサイコパス王子だと認識してから、ますます遠慮なく口説かれるようになった。

 王城に来てから二カ月経つが、今日もルシアンの執務室でふたりきりになり腹黒教育の時間なのだが、アマリリスがソファに押し倒され、ルシアンが獰猛な視線で見下ろしている。

「リリス先生。こんな風に押し倒されたらどうするの? ほら女性はか弱いから逃げられないでしょう?」

 青い生地のソファに広がるアマリリスの真紅の髪を掬い上げ、ルシアンがうっとりとした様子で唇を落とした。

「私はルシアン殿下の寵愛を受けておりますが、お覚悟の上でしょうか? と返します」
「うん、さすがだね。他の貴族ならそれで引くだろうね。でも、僕はそれくらいで引かないけれど?」
「ルシアン様。私の信頼を裏切るというならお好きにどうぞ。その場合はこれから先、なにがあっても貴方様に心を開くことはありません」

 ルシアンみたいなタイプには罪悪感を煽る言葉も、権力でねじ伏せるような言葉も通じない。あくまでも将来的に自分の利益にならない、むしろ損失しかないと思わせないと動いてはくれないのだ。