フレデルト王国の婚約者が正式に発表される夜会には、国中の貴族はもちろん近隣の国からも外交官や高官、王族たちが参加していた。
 王城でも一番格式のあるホールが会場となり、優雅な音楽を聞き流しながら貴族たちが親交を深めている。

 ゆっくりと会場の扉が開かれ、アマリリスはパートナーと共に一歩足を踏み出した。大理石の床を進むたび、カツンとヒールが音を立てる。

 淡い紫のドレスには金糸の刺繍がびっちりと施され、イエローダイヤモンドのアクセサリーがアマリリスを煌びやかに飾っている。身体のラインに沿ったドレスは、女神のように均整の取れたスタイルを引き立てていた。

 真紅の髪は左肩へ流され、小さな黄色の花飾りが散りばめられている。シャンデリアの明かりを反射した琥珀色の瞳は、気高く真っ直ぐに前を向いていた。

 アマリリスたちが会場を進んでいくと、今までのざわめきが嘘のように貴族たちが静まり返っていく。アマリリスをエスコートしているのはルシアンではなく、その様子を見たパートナーの青年が楽しそうに呟いた。

「随分注目を浴びているな」
「仕方ないわ、テオ兄様が素敵なんですもの」
「いや、どちらかというとリリスが美しすぎるからだろう」