…などと、雛堂達と別れてから、母さんと電話で長話していたせいで。

つーか、俺が誤解させてしまったのを必死に弁明してたからなんだが。

買い物を終えて家に帰る頃には、すっかり辺りが暗くなってしまっていた。

夕飯のリクエスト聞こうと思ってたのに、それどころじゃなかったな。

人参とじゃがいもが安かったから、今日はカレー…か、ハヤシライスの二択だな。

「ただいまー。寿々花さん」

俺は自宅の扉を開けた。

…の、だが。

「…?」

いつもの、「お帰り」の返事がない。

それどころか、家の中がしんと静まり返っている。

…前もあったな。そんなこと。

もしかして、昼寝でもしてるのだろうか。

昼寝じゃなくて…正しくは夕寝、の時間になってるが。

それとも、あまりに長い間留守番させられてたから、不貞腐れてしまっているのだろうか。

「…寿々花さん…?」

リビングに向かったが、電気が消えていて、無人のようだ。

自分の部屋にいるのかな…。やっぱり寝ながら待って、 

「…って、うわっ!?」

自分でリビングの電気をつけて、そして仰天した。

リビングのソファに、寿々花さんが座っていたからである。

ソファの上で体育座りをして、例のキノコクッションを抱いて、ボーッとしていた。

びっ…びったぁ…。

心臓止まるかと思ったじゃないかよ。

「あ、あんた…居たのかよ…」

電気もつけずに…。居たのなら電気くらいつければ良いものを。

「大丈夫か?寿々花さん…。どうかしたのかよ?」

「…」

寿々花さんは返事がない…どころか。

こちらをちらりとも見ようとしない。

…?

「えっと…。今日、カレーかハヤシライスのどっちかにする予定なんだけど…。どっちが良い?」

「…」

「…??だいじょう…あっ、ごめんな。帰ってくるの遅くなって。ずっと待っててくれたんだよな?」

「…」

…どうしよう。マジで返事がない。 

謝ったのだが、まるで聞こえていないようだ。

な、何で…?

こんなこと初めてだ。

俺の声が聞こえてない訳じゃないだろう。いくらこの家のリビングが広いからって。

聞こえているはずなのに、寿々花さんは無反応。

どころか、こちらをちらりとも見ようとしない。

まるで、俺が居ないかのように。

こんな寿々花さんを見るのは初めてで、何?これ。もしかして怒ってる?

静かに怒りを燃やしてる?俺の帰りがあまりにも遅いから?

普段怒らない人が怒ると、めちゃくちゃ怖いとかいうあれ?あのパターン?

マジで?これ怒ってるのか…?

でも、表情は怒ってるって感じじゃなくて…。

…いつものぽやーん顔なんだよな。何だか…遠くを見つめているめ、って言うか…。

放心しているように見える。

…大丈夫なのか?本当に。

「え、えーっと…。寿々花さん…」

怒ってるにしてもそうじゃないにしても、返事くらいはしてくれないか。

「遅くなって悪…。あ、そうだみたらし団子…。お土産にみたらし団子買ってきたんだ。黒いけど…」

俺は少しでも寿々花さんの興味関心を惹こうと、買ってきたお土産のビニール袋を見せた。

勿論、テイクアウト用のビニール袋も真っ黒である。

見た目のインパクトは凄いけど、でも中身は美味しいぞ。

普通のみたらし団子と同じ…いや、普通のみたらし団子よりも美味しいくらい。

「寿々花さん、えっーと…」

「…」

「…みたらし団子、嫌いだっけ…?」

「…」

寿々花さんがあまりに無反応だから、俺も心配になってきた。