さて、週末にゲームセンターに遊びに行くことが決まったが。

その前に、バレンタインデー当日の話をしておかなければならない。

俺は14日のバレンタインデー当日を待たずに、週明けの月曜日にチョコを渡したが…。





「はよーっす、悠理兄さん。チョコ持ってけどろぼー!」

「…引ったくってんじゃねぇんだから、泥棒じゃないだろ」

それが人にチョコを渡す態度か?なぁ。

バレンタイン当日の朝、登校してくるなり。

雛堂から、友チョコをもらった。

「はいよ、これ。持ってけ」

「お、おぉ…?何だ、これ?」

紙袋に入ったバレンタインチョコをもらったんだが、手渡されてみると予想以上ズシッ、と重くてびっくりした。

チョコって、もっと軽いもんじゃねーの?

「なんか重いんだけど…。何入ってんの?」

「無月院の姉さんと二人分だからな。二人で仲良く分けてくれ」

あぁ成程、寿々花さんにも。

…二人分だとしても、なんか重くね?

「…見て良い?中…」

「おぉ、良いぞ。と言っても、悠理兄さんのチョコと違って全然珍しいものではないけどな」

とのこと。

紙袋をそっと覗いてみたところ、入っていたのは。

小ぶりのボウルくらいの大きさの紙箱に、大量に詰まった…。

…チロルチョコ。

「バケツプリンならぬ、バケツチロルチョコ!どうよ?」

これには、雛堂もドヤ顔である。

成程、そう来たか。

確かに珍しいものではないが、安定と信頼の美味しさが保証されている。

少なくとも、俺のリスキーな「手作りチョコ」に比べると、全くリスクはない。

いつ食べても、どれを食べても美味しい。

ちなみに、俺が一番好きなチロルチョコはビスケットである。

基本、どれも好きだけどな。

「自分、小さい時兄弟でお菓子を分け合うのが不満でさー。ポテチを一袋まるまる一人で食べるのと、バケツいっぱいのチロルチョコを独り占めするのが夢だったんだよねー」

「良かったな。今はその夢が叶ったのか」

「そうそう。中学生になって小遣いアップして、初めて夢が叶ったよ」

なんか分かる気がするなぁ。

たかがチロルチョコ、と笑うなかれ。

雛堂のそういう、飾らない、ささやかな「夢」には好感が持てる。

俺だってカニカマ食べながら、「いつか本物のカニ食べたいなぁ」って夢を見てたからさ。

雛堂の気持ちは分かるよ。

「まー、何万円もするカカオ豆から作ったチョコに比べたら、全然釣り合わないけどさ」

「そんなことはねぇよ、別に」

値段の問題じゃなくて。

何も俺は、見返りを求めてチョコを作った訳じゃないから。

そんなの気にする必要はない。

「充分嬉しいよ。ありがとう」

「マジかよ。悠理兄さん、超イケメン。女だったら絶対コクってたわ」

それは残念だったな。

生憎、俺が女だったとしたら、そもそも出会えてないと思うぞ。

ここ、実質男子校だからな。

アホなこと言ってないで、現実を見ようぜ。現実をな。

すると、そこに。

「おはようございます」

「おっ、真珠兄さんも来たな」

乙無が登校してきた。

おはよう。