…さて、そんなこともありながら。

長かった夏休みも、残り二日となった。

やれやれ。もうすぐ新学期の始まりだな。

夏休みの宿題は既に終わっているから、安心して座して時を待てば良い。

で、新学期を間近に控えたこの日。

我が家のお嬢様、寿々花さんが起きてきたのは、午前11時近くになってからだった。

「おはよ〜…。悠理君…」

「おはよう」

遅いお目覚めだったな。

おはようって言うか、もうこんにちはの時間だけど。

眠い目をごしごしと擦る寿々花さん。

「のんびりしてるのは良いけど、もうすぐ新学期なんだから、身体のリズムを戻しておかないと」

夏休みだからってダラダラしてると、新学期を迎えたとき、朝起きられなくなるぞ。

そうなるのが怖いから、俺は出来るだけ、休みの日もいつも通りの時間に起きるようにしている。

早起きは三文の徳ってね。

早起きして得したこと、今のところないけど。

「うん、分かってるよ〜…」

…分かってんのか?本当に。

半分寝惚けてんじゃん。まだ。

「夢を見てたんだぁ。面白い夢だったから、途中で起きられなくて」

と、教えてくれた。

また夢か…。寿々花さん、よく夢見るよな。

「どんな夢だったんだ?」

「未来から来た恋人が変態ストーカーになる話」

…それ、面白いか?

ユニーク過ぎるだろ。一体どんな夢見てんだ。

「悠理君は、昨日どんな夢見たの?」

「俺?俺は…自販機に百円玉を入れたら、次々に缶コーヒーが出てきて止まらなくなるっていう夢を見た」

「悠理君の夢も面白いね」

面白かねーよ。

ガシャコンガシャコンガシャコン、と延々缶コーヒーが出てきてさ、「やべぇ、これどうしたら良いんだ!?」ってめちゃくちゃ焦ってたから。

目が覚めて、夢で良かったとしみじみ思った。

「って、そんな夢の話はどうでも良い。早く着替えろって。もう昼だぞ、ほぼ」

「ほぇ?」

「ほぇ、じゃなくて…。服を着替えてから降りてこいって、何回言ったら理解するんだ、あんたは?」

相変わらず寝巻き姿で…俺のお古ジャージ姿で降りてくんの。

寝起きでいちいち俺に挨拶しに降りてくる必要ないから。起きたら、すぐに着替えなさい。

だらしないでしょうが。

「うーん…。それじゃ、悠理君が脱がして」

は?

寿々花さんはソファに座って、万歳するように両手を上げた。

…え?これ、俺が脱がせってこと?

「…ちょ、何アホ言ってんだよ。自分で…」

「早く早くー」

急かすな。

何が嬉しくて、何で俺が着替えさせてやらなきゃいけないんだよ。

そういうのはな、そういうのは女性の使用人に頼むべきことであって…。

「早くー。腕が疲れるよー」

「あぁ、もう…!あんたって人は、性別間違えて生まれてきたんじゃないか…!?」

こうなったら、もうやけっぱちだ。

「ほら、腕引っ込めて。あぁ、もう髪の毛もぐっちゃぐちゃだし…」

「いたたた。悠理君痛い。もうちょっと優しく…」

「良いから、早く脱げっての」

朝から何をやってるんだ、俺は。

俺は、っつーか…俺達は。

こんなところ、誰かに見られたら赤っ恥…と。

思っていたその時。