なんて、ちょっと良い話風にまとめてみたけど。

そんなことが言えたのは、翌朝になるまでだった。

「ぐっ…!つ、ぅぅ…」

寝起き第一声から、鶏の首を絞めたような声でごめんな。

全身の。筋肉痛が。かつてないほどに。

思わず、喋り方がカタコトになってしまう。

ベッドから降りるどころか、上半身を起こすだけでも一苦労。

いつもの3倍くらい時間をかけて、のろのろと起き上がり。

さながら薄氷の上を歩くかのごとく、一歩一歩慎重に、軋む両脚を動かした。

あまりの痛みに、老人みたいに腰が曲がってる。

覚悟はしていたけど…予想以上だ。

そりゃ突然20キロも走らされたら、全身筋肉痛にもなるよ。

一瞬、学校サボってやろうかなという気になった。

「全身が筋肉痛で死にそうなんで、今日学校休みます!」って言ってやろうかと。

でも、さすがに…風邪を引いた訳でもないのに、筋肉痛で学校を休むってのはどうかと思った。

それに、なんか負けたような気分になるじゃないか。

筋肉痛で休みますなんて。情けないしさ。

そう思って、俺は気合いで起き上がり、気合いでキッチンに向かった。

今日も気合いでお弁当を作り、気合いで学校行ってやるよ。
 
戸棚からフライパンを出すだけでも、一苦労。

フライパンって、こんなに重かったっけ…?

…しかも。

「あー…。もう、何だよ…」

調理中に、突然スマホが鳴り始めた。

誰だよ。こんな朝っぱらから。

寿々花さんじゃないのは確かだな。あの人、俺のスマホの番号どころか家電の番号さえ覚束ないのに。

身体中痛いって時に、何だ。

仕方なくフライパンを置いて、ロボットみたいにカクカクした動きで、スマホを取りに行くと。

着信じゃなくて、メールが一通届いていた。

雛堂からである。

『件名∶筋肉痛
本文∶\(^o^)/オワタ』

…とのこと。

俺は思わず、速攻でメールをゴミ箱に削除。

オワタじゃねーんだよ。こんな下らないことで、いちいちメールしてくんな。

余計な労力を使ってしまった気分だ。

腹立ち紛れにスマホをソファにペッ、と投げ、俺はキッチンに戻った。

またしても、カクついた動きで。

…にしても、雛堂も筋肉痛か。

多分、男子部の生徒は今日、全員ロボットみたいな動きになってるだろうな。

いつもに比べて歩く速度が遅過ぎるから、早めに家を出ることにしよう。

あのクールビューティー体育教師…絶対に許さんからな。