午後なんて一生来なければ良いのになぁ、と思いつつ。

しかし、嫌なことが待ち受けてる時って、あっという間に時間が過ぎるんだよな。

「よし、着替える準備も必要だし、そろそろ新校舎に行こうぜ」

結局逃げる機会を逸し、運命の時間が来てしまった。

「…やっぱり行かないと駄目か?」

「当たり前だろ。全クラス参加のイベントなんだから。欠員を出したら自分が責められるっつーの」

そうか…。それじゃ仕方ないな。

「覚悟を決めろよ、悠理兄さん。男だろ?ここはビシッと格好良く…あ、ごめん今だけは女になるんだった」

「黙ってろ」

ならねーよ、馬鹿。無理矢理女装させられるだけだ。

重い重い腰を上げて、俺と雛堂と乙無の三人は、新校舎の体育館に向かった。

そこに、女装・男装コンテストの特設ステージが設けられているのだ。

俺達参加者は、それぞれ控え室兼更衣室に入って、来たるコンテストの支度をすることになる。

男性用に用意された控え室に入ると、そこには。

(半強制的に)女装部門にエントリーさせられた、俺以外の二人の犠牲者が、死んだ魚の目で支度をしているところだった。

女装・男装コンテストと言っても、メインは女子部の選手が出場する男装部門であり。

女装部門のエントリー数は、俺を含めて僅か三人である。

代表は各クラスから一人ずつ。男子部には各学年にひとクラスしかないのだから、そりゃそうなる。

各クラスから一人じゃなくて、各学年から一人、になってるな。男子部だけ。

たった三人…。出場するだけでメダルがもらえるな。

もう良いじゃん、たった三人しかいないのに、わざわざ競う必要ある?

いっそのこと、じゃんけんで決めようぜ。

って、ここにいる三人の女装被害者、全員が思っているに違いないが。

残念ながら、じゃんけんでは決められないので。

仕方なく、渋々、嫌々、億劫ながら、女装衣装を手に取った。

…はー…。

…何で、俺がこんな目に?

しかも、小花衣先輩の従姉妹さんから借りたこの服。着てみたら、あつらえたようにぴったりだし。

ワンチャン、服のサイズが合わないからやっぱり辞退します、とかいう主張が通るかと思ったのに。

こんなにぴったりじゃ、それも出来ない。

それなのに、呑気な雛堂と乙無は。

「おっ、良いじゃ〜ん!悠理兄さん、いや、悠理姉さん。似合う、似合う」

着替えた俺を見て、手を叩いて称賛。

こんなに嬉しくない褒め言葉が、他にあるか?

姉さん言うな。

「セーラー服ですか…。まさに、そういう趣味の人みたいですね」

と、真顔で呟く乙無。

やめろって。そういう趣味はない。

そう、小花衣先輩の従姉妹さんが通っていたという、高校の制服。

なんと、セーラー服なのである。

セーラー服なんて見るの、中学の時以来だよ。

聖青薔薇学園女子部の制服は、ワンピースタイプの白い制服で、セーラー服ではない。

人生で一度でも、セーラー服を着ることになるなんて。

申し訳なくて、ご先祖様に顔向け出来ない。

こんな恥辱はもう御免だ。さっさと終わらせたい。

しかし、そうは行かなかった。

「よし、それじゃあ着替えたことだし…。ここから、更に飾るとするか」

…は?

雛堂、今何て言った?