⚪学校 昼
「りっちゃ~ん,理海,理海ちゃーん」
着席しだらんと机に凭れる綴。
サイドみつあみのお団子ヘアー。
「はいはい綴さんなんですかね~? ほいとごめんよー?」
理海はふんふんと鼻歌交じりに机を正面に寄せる。
「特定の男の人がかっこよく見えすぎるのって……どうしたらいいのかな」
朝の寝ぼけた顔も,ご飯の丁寧な食べ方も。
「え?」
私がお風呂から上がった時,たまにソファーで寝ているその寝顔も。
「きゅんきゅんしすぎて3秒以上みれないの」
両腕に顔を埋める綴を,理海はぽかんと見つめる。
「え? なに? 誰の話? ……浮気?」
「ちっ違うよ,前に……話した人」
「へー。わぁ。あの彼氏か。え,付き合ってんだよね? なのにそんな今更??」
「……うん」
話せば長くなるんだけど。
本当は彼氏なんかじゃないだよ,りっちゃん。
鈴くんもごめんね,誤魔化しが下手くそで。
理海は早くもお弁当を開け,手を合わせる。
「えー? めんどくさいなぁ。理海は~私は~妾は~」
美味しそうに唐揚げを頬張る理海。
「がっつり好きなだけ見て,それを相手にも伝えたらいいんじゃないかな~っ!!! っと,思いますよ!」
綴はピシャリと固まる。
「うれしーと思うなー彼女にそんなこと言われたら。照れがおgetかもよ? チューしちゃえ」
鈴くんに,そのまま打ち明ける?
『り,鈴くんって格好いいよねっ』(精一杯)
『? だから?』(さらっと眉を寄せて)
い,言いそう。
むり,何なら絶対『は?』って言われる……!!!
こればかりは諦めようとお弁当を開く綴。
「あ」
「なに? りっちゃん」
「やっぱり最近凝ってるなーと思って」
どきんとする綴。
そ,それはまあ? 私以外も食べますし?
平静を装いながらトマトを口にいれる。
「昨日は珍しくサンドイッチだった」
呟く理海に,綴はどきどきっと肩を揺らす。
名探偵理海
「お弁当……交換してる?」
核心をつく。
トマトが口の中でぷちゅっと潰れ,口を押さえる綴。
正確には,中身が一緒なんですっ……!!
たらたらとした冷や汗に,理海が横目でにやりと笑う。
「はいはい。なーんだ,ただの仲良しか」
ご馳走さまの声に,ほとんど残ったお弁当を見下ろす綴。
「また聞かせてね,綴」
「もー」
困りながらも,拒否はしない綴。
⚪学校 夕方
「はい,じゃあ明日のロングは体育館集合なのでね,はい,皆さん忘れないよーに。はい解散」
「きりーつ,れーい」
ガタガタと椅子の音。
またなーとさくさく帰る男子。
よし,帰ろう。
「じゃあね,りっちゃん!」
何と言っても今日は……
鈴くんが買ってきてくれた新作のアイスが私を待っている~っ。
にこにこと挨拶をしてドアを目指す綴。
「ちょっと待って」
そんな綴の肩を理海が捕まえる。
「ん?」
「え,や。あのさ,もしかして,なんだけど」
「うん」
「帰ろうとしてない?」
……え?
⚪小さい教室
「んも~,委員会なんて聞いてない~」
両手で頬杖をつく綴。
斜め前に教師が座っている。
「あはは。日野さん,先生が話してる時ぼーっとしてたもんね」
丸めのメガネ男子Aが楽しげに綴をみる。
「えっ見てた?!」
恥ずかしい……
顔を挟む綴。
「え!? や,委員会,一緒だから……その時だけつい……」
もごつく男子A。
「あーあ,折角早く帰れるって思ったのに」
文化委員の文字をホワイトボードに見つけ,綴がぼやく。
「最近やけに早く帰るよね」
どきんと綴。
う。
私ってばもしかして,アイスは口実だったり?
学校では鈴くんに話しかけるなんて出来ないから。
鈴くんは鈴くんで,すれ違ったって何も言わないし。
そうだよね,と落ち込む綴。
元々しつこく言われてるし……
突然しゅんとする綴をみて,Aが話題を変える。
「文化祭終わったけど,まだ何かあるのかな」
「うーん,もう残ってるイベントの片付けくらいじゃないかな」
でも……
「文化祭,楽しかったね優羽くん」
頬杖をついたまま,へらりと笑う綴。
目を丸くして,優羽は恥ずかしげにはにかむ。
「小道具班纏めて,率先して色々調べたり作ってくれたりしてすごく助かったよ」
⚪回想
箱を組み立てる男女数人の前に,バケツや絵の具を持って廊下から現れる優羽。
ちょっぴり汚れている。
回想終了
「そ,それを言うならスケジュール纏めてくれたのも最終決めてくれたのも日野さんだし……」
えっと驚く綴。
「ヒロインの友達役,結局一番台詞多かったのに堂々としてて……かっこよかった」
優羽は顔を傾け,にっこりと笑う。
「えっと」
「はいじゃー全クラス集まったかな? 1組2組……2の1……じゃ,始めまーす。起立,礼」
頭を下げ,優羽を向く綴。
「ありがと」
小さな声で,照れ笑う。
優羽は顔を赤く緊張に強張らせ,逸らす。
⚪学校 廊下
「早く終わって良かった!」
嬉しそうに拳を握り突き上げる綴。
「そうだね」
優羽は横に並んでいる。
「日野さんはもう帰る……」
「あメッセージ」
スマホの電源ボタンを押す綴。
『今日,委員会? 買い物と夕飯やっとくから,帰りは急がなくていい』
送り主の名前が見えないよう,綴はさっと隠す。
鈴くん……
じーんと感動し,スマホを嬉しそうに鞄へしまう。
「あれ?」
優羽に振り返る綴。
「ごめん,今もしかして何か言った?」
きょとんとした瞳に見つめられ,優羽が苦笑する。
「もしよかったら,このまま一緒に帰らない? って言ったんだよ」
⚪道路と植木の横(帰り道)
「何気に初めてだよね,一緒に帰るの」
「……うん」
「ご近所さんなのに」
人差し指を立て,軽い口調で告げる綴。
「知ってたの?」
優羽は目を丸くする。
「そりゃあ知ってるよ。登校時間が違っても,小学2年生から住んでるんだよ?」
曲がり角が目につく綴。
苦笑しながら優羽を見る。
優羽くん見てたら忘れそうだった。
「住んでた,なんだった。私引っ越したの。だからここでお別れ」
ひらひらと手を振って,横断歩道を渡っていく綴。
渡りきったところで,パシリと手を掴まれる。
「えっ」
振り向いて,綴は取り敢えず優羽が渡りきれる分下がる。
「ど,どうか」
「それって……ひとつき位前に喪服見たいな大人が沢山入っていったのと,関係ある」
じわりと広がった瞳と,歪む顔。
「……ごめん」
ぱっと離された手に,綴は驚きながらもほっとする。
「最近いつ通ってもがらんとしてて……」
⚪回想
青白い夕方に下校する優羽の前に建つ,人気のない古い家。
回想終了
「日野さんも,沈んでたりぼーっとしてたり,かと思えば最近は元気なときもあったりで不安定だったから」
⚪回想
授業中,教材を準備し開いたまま,ただ正面に焦点を当てる綴。
5分休みに暗い顔で俯く綴。
理海と楽しげに話している綴。
回想終了
「心配,してくれたんだよね。ありがとう」
ふわりと微笑む綴。
「お母さんが……いなくなっちゃったの」
綴は一度俯いて,息を吐く。
想像していた優羽も,悲しげに唇を噛んで俯く。
小学生の頃,帰りに見かけた際の笑顔を浮かべる優羽。
「でももう大丈夫」
優羽は顔をあげる。
「優しい人が側にいてくれるから,寂しくはないよ」
家にいる鈴を思い浮かべる綴。
優羽は綴を甲斐甲斐しく世話する中年夫婦を思い浮かべている。
「そっか。……送るよ。よくないこと聞いちゃったし心配だから」
「え? でも,本当にすぐ近くで」
「だからだよ。市内ならそれくらいするさ」
綴が入ろうとしていた角へ先に進む優羽。
⚪回想
日野さんが近くに住むようになったのは,小学校2年生の時だった。
先生が綴のフルネームを黒板に書いている。
もうすぐ3年生になる変なタイミングで,日野さんは僕のクラスに転校してきたのだ。
自己紹介を求められ,困ったように手を弄り,名乗る綴。
『ひの,つづり……です。ふっうげつ小学校から……きました。よろしくおねがいします』
担任の若い女の人が,話す綴の後ろで風月小学校と書く。
いつも塞いで,戸惑っていた日野さんは,あんまり仲良くしたくないんじゃないかなんてよく言われていて。
話しかけられ,ビーズのアクセサリーに目を輝かし反応する綴。
それでも何人かの女の子と上手くやっていた。
だけど3年生になった頃,弟と名字が違うなんて囁かれ。
下駄箱で笑いながら話す綴と一希。
綴の授業参観に来る母親。
『ねぇ,あの人って一希くんのお母さんじゃないの?』
『ね。美和一希くんて,弟の友達』
養子と言う言葉"だけ"が広まり,からかわれることが増えた。
僕は悲しそうなのが嫌で,たまにほんの少し話したりして。
綴と静かに話す優羽。
男女にそれぞれ囲まれる綴。
『綴~! 昨日のアニメ見た?』
『昼のドッヂ,綴も来るか?』
それでも学校に慣れた綴さんがいつの間にか沢山の人に囲まれ笑うのを見て,僕は。
その強さに,見惚れ,いつの間にか恋をしていた。
高校まで同じだったのはたまたまだけど,同じだと知ってから。
得意の勉強も,苦手な体育の授業も。
綴さんが悲しい思いをした時に頼ってもらえるよう,格好いい人を目指して頑張った。
真っ先に文化委員を志願した日野さんに,柄じゃなくても続いた。
今年同じクラスになって,文化祭が終わって,強く決めていた。
『久しぶり。よろしくね』
にっこり笑う綴。
『好きですって,言おう』
決意する優羽。
帰っていく通夜の参列者を目撃する優羽。
今はまだもう告白なんて出来ないとしても。
⚪回想終了
僕は悲しくない時間を増やす,手助けがしたい。
追いかけてくる綴を振り返る優羽。
綴は息を整えペースを落とす。
「私。りっちゃんとか,優羽くんとか。何かあった時に気づいてくれる友達がいて,良かった」
綴の目が,優羽をとらえる。
「安心する!」
破顔した表情に,真っ赤になる優羽。
そんな人だから。
今はまだ友達でも,僕は君が好きなんだ。
夕日を見上げ,潤む瞳を隠す。
⚪家の数メートル手前
「あそこ?」
「ううん,その2つ向こ……」
?!
家の前に鈴の姿を見つける綴。
「じゃなくてその向こう」
嘘付いちゃったけど,鈴くんは何して……?
鈴の背中を斜めに見つけて,どきんと固まり笑顔を張り付ける。
「ああ! あそこ」
鈴の前に人影を見つける綴。
誰かと話してるのかな。
声はかけてこないよね?
どきどきと俯いて通りすぎようとして,相手の髪の長さに顔をあげる。
腰までのロング……
「鈴くん,やっぱり私は納得できない!!」
抱きつかれる鈴が冷静に綴を見る。
「どこ行こうとしてんの? 綴」
ええ。
混乱に何も言わない綴。
目を丸くする優羽。
「綴って,え。清水鈴?」
思わず呼び捨てにしてしまい,はっと口を塞ぐ。
男の存在に,優羽を冷たく睨む鈴。
「誰?」「どちら……さま?」
取り敢えず相手の女の人が気になるロングと綴。
「誰?」
「あ,いや……」
威圧する鈴と,?を飛ばし未だ纏まらない優羽。
「りっちゃ~ん,理海,理海ちゃーん」
着席しだらんと机に凭れる綴。
サイドみつあみのお団子ヘアー。
「はいはい綴さんなんですかね~? ほいとごめんよー?」
理海はふんふんと鼻歌交じりに机を正面に寄せる。
「特定の男の人がかっこよく見えすぎるのって……どうしたらいいのかな」
朝の寝ぼけた顔も,ご飯の丁寧な食べ方も。
「え?」
私がお風呂から上がった時,たまにソファーで寝ているその寝顔も。
「きゅんきゅんしすぎて3秒以上みれないの」
両腕に顔を埋める綴を,理海はぽかんと見つめる。
「え? なに? 誰の話? ……浮気?」
「ちっ違うよ,前に……話した人」
「へー。わぁ。あの彼氏か。え,付き合ってんだよね? なのにそんな今更??」
「……うん」
話せば長くなるんだけど。
本当は彼氏なんかじゃないだよ,りっちゃん。
鈴くんもごめんね,誤魔化しが下手くそで。
理海は早くもお弁当を開け,手を合わせる。
「えー? めんどくさいなぁ。理海は~私は~妾は~」
美味しそうに唐揚げを頬張る理海。
「がっつり好きなだけ見て,それを相手にも伝えたらいいんじゃないかな~っ!!! っと,思いますよ!」
綴はピシャリと固まる。
「うれしーと思うなー彼女にそんなこと言われたら。照れがおgetかもよ? チューしちゃえ」
鈴くんに,そのまま打ち明ける?
『り,鈴くんって格好いいよねっ』(精一杯)
『? だから?』(さらっと眉を寄せて)
い,言いそう。
むり,何なら絶対『は?』って言われる……!!!
こればかりは諦めようとお弁当を開く綴。
「あ」
「なに? りっちゃん」
「やっぱり最近凝ってるなーと思って」
どきんとする綴。
そ,それはまあ? 私以外も食べますし?
平静を装いながらトマトを口にいれる。
「昨日は珍しくサンドイッチだった」
呟く理海に,綴はどきどきっと肩を揺らす。
名探偵理海
「お弁当……交換してる?」
核心をつく。
トマトが口の中でぷちゅっと潰れ,口を押さえる綴。
正確には,中身が一緒なんですっ……!!
たらたらとした冷や汗に,理海が横目でにやりと笑う。
「はいはい。なーんだ,ただの仲良しか」
ご馳走さまの声に,ほとんど残ったお弁当を見下ろす綴。
「また聞かせてね,綴」
「もー」
困りながらも,拒否はしない綴。
⚪学校 夕方
「はい,じゃあ明日のロングは体育館集合なのでね,はい,皆さん忘れないよーに。はい解散」
「きりーつ,れーい」
ガタガタと椅子の音。
またなーとさくさく帰る男子。
よし,帰ろう。
「じゃあね,りっちゃん!」
何と言っても今日は……
鈴くんが買ってきてくれた新作のアイスが私を待っている~っ。
にこにこと挨拶をしてドアを目指す綴。
「ちょっと待って」
そんな綴の肩を理海が捕まえる。
「ん?」
「え,や。あのさ,もしかして,なんだけど」
「うん」
「帰ろうとしてない?」
……え?
⚪小さい教室
「んも~,委員会なんて聞いてない~」
両手で頬杖をつく綴。
斜め前に教師が座っている。
「あはは。日野さん,先生が話してる時ぼーっとしてたもんね」
丸めのメガネ男子Aが楽しげに綴をみる。
「えっ見てた?!」
恥ずかしい……
顔を挟む綴。
「え!? や,委員会,一緒だから……その時だけつい……」
もごつく男子A。
「あーあ,折角早く帰れるって思ったのに」
文化委員の文字をホワイトボードに見つけ,綴がぼやく。
「最近やけに早く帰るよね」
どきんと綴。
う。
私ってばもしかして,アイスは口実だったり?
学校では鈴くんに話しかけるなんて出来ないから。
鈴くんは鈴くんで,すれ違ったって何も言わないし。
そうだよね,と落ち込む綴。
元々しつこく言われてるし……
突然しゅんとする綴をみて,Aが話題を変える。
「文化祭終わったけど,まだ何かあるのかな」
「うーん,もう残ってるイベントの片付けくらいじゃないかな」
でも……
「文化祭,楽しかったね優羽くん」
頬杖をついたまま,へらりと笑う綴。
目を丸くして,優羽は恥ずかしげにはにかむ。
「小道具班纏めて,率先して色々調べたり作ってくれたりしてすごく助かったよ」
⚪回想
箱を組み立てる男女数人の前に,バケツや絵の具を持って廊下から現れる優羽。
ちょっぴり汚れている。
回想終了
「そ,それを言うならスケジュール纏めてくれたのも最終決めてくれたのも日野さんだし……」
えっと驚く綴。
「ヒロインの友達役,結局一番台詞多かったのに堂々としてて……かっこよかった」
優羽は顔を傾け,にっこりと笑う。
「えっと」
「はいじゃー全クラス集まったかな? 1組2組……2の1……じゃ,始めまーす。起立,礼」
頭を下げ,優羽を向く綴。
「ありがと」
小さな声で,照れ笑う。
優羽は顔を赤く緊張に強張らせ,逸らす。
⚪学校 廊下
「早く終わって良かった!」
嬉しそうに拳を握り突き上げる綴。
「そうだね」
優羽は横に並んでいる。
「日野さんはもう帰る……」
「あメッセージ」
スマホの電源ボタンを押す綴。
『今日,委員会? 買い物と夕飯やっとくから,帰りは急がなくていい』
送り主の名前が見えないよう,綴はさっと隠す。
鈴くん……
じーんと感動し,スマホを嬉しそうに鞄へしまう。
「あれ?」
優羽に振り返る綴。
「ごめん,今もしかして何か言った?」
きょとんとした瞳に見つめられ,優羽が苦笑する。
「もしよかったら,このまま一緒に帰らない? って言ったんだよ」
⚪道路と植木の横(帰り道)
「何気に初めてだよね,一緒に帰るの」
「……うん」
「ご近所さんなのに」
人差し指を立て,軽い口調で告げる綴。
「知ってたの?」
優羽は目を丸くする。
「そりゃあ知ってるよ。登校時間が違っても,小学2年生から住んでるんだよ?」
曲がり角が目につく綴。
苦笑しながら優羽を見る。
優羽くん見てたら忘れそうだった。
「住んでた,なんだった。私引っ越したの。だからここでお別れ」
ひらひらと手を振って,横断歩道を渡っていく綴。
渡りきったところで,パシリと手を掴まれる。
「えっ」
振り向いて,綴は取り敢えず優羽が渡りきれる分下がる。
「ど,どうか」
「それって……ひとつき位前に喪服見たいな大人が沢山入っていったのと,関係ある」
じわりと広がった瞳と,歪む顔。
「……ごめん」
ぱっと離された手に,綴は驚きながらもほっとする。
「最近いつ通ってもがらんとしてて……」
⚪回想
青白い夕方に下校する優羽の前に建つ,人気のない古い家。
回想終了
「日野さんも,沈んでたりぼーっとしてたり,かと思えば最近は元気なときもあったりで不安定だったから」
⚪回想
授業中,教材を準備し開いたまま,ただ正面に焦点を当てる綴。
5分休みに暗い顔で俯く綴。
理海と楽しげに話している綴。
回想終了
「心配,してくれたんだよね。ありがとう」
ふわりと微笑む綴。
「お母さんが……いなくなっちゃったの」
綴は一度俯いて,息を吐く。
想像していた優羽も,悲しげに唇を噛んで俯く。
小学生の頃,帰りに見かけた際の笑顔を浮かべる優羽。
「でももう大丈夫」
優羽は顔をあげる。
「優しい人が側にいてくれるから,寂しくはないよ」
家にいる鈴を思い浮かべる綴。
優羽は綴を甲斐甲斐しく世話する中年夫婦を思い浮かべている。
「そっか。……送るよ。よくないこと聞いちゃったし心配だから」
「え? でも,本当にすぐ近くで」
「だからだよ。市内ならそれくらいするさ」
綴が入ろうとしていた角へ先に進む優羽。
⚪回想
日野さんが近くに住むようになったのは,小学校2年生の時だった。
先生が綴のフルネームを黒板に書いている。
もうすぐ3年生になる変なタイミングで,日野さんは僕のクラスに転校してきたのだ。
自己紹介を求められ,困ったように手を弄り,名乗る綴。
『ひの,つづり……です。ふっうげつ小学校から……きました。よろしくおねがいします』
担任の若い女の人が,話す綴の後ろで風月小学校と書く。
いつも塞いで,戸惑っていた日野さんは,あんまり仲良くしたくないんじゃないかなんてよく言われていて。
話しかけられ,ビーズのアクセサリーに目を輝かし反応する綴。
それでも何人かの女の子と上手くやっていた。
だけど3年生になった頃,弟と名字が違うなんて囁かれ。
下駄箱で笑いながら話す綴と一希。
綴の授業参観に来る母親。
『ねぇ,あの人って一希くんのお母さんじゃないの?』
『ね。美和一希くんて,弟の友達』
養子と言う言葉"だけ"が広まり,からかわれることが増えた。
僕は悲しそうなのが嫌で,たまにほんの少し話したりして。
綴と静かに話す優羽。
男女にそれぞれ囲まれる綴。
『綴~! 昨日のアニメ見た?』
『昼のドッヂ,綴も来るか?』
それでも学校に慣れた綴さんがいつの間にか沢山の人に囲まれ笑うのを見て,僕は。
その強さに,見惚れ,いつの間にか恋をしていた。
高校まで同じだったのはたまたまだけど,同じだと知ってから。
得意の勉強も,苦手な体育の授業も。
綴さんが悲しい思いをした時に頼ってもらえるよう,格好いい人を目指して頑張った。
真っ先に文化委員を志願した日野さんに,柄じゃなくても続いた。
今年同じクラスになって,文化祭が終わって,強く決めていた。
『久しぶり。よろしくね』
にっこり笑う綴。
『好きですって,言おう』
決意する優羽。
帰っていく通夜の参列者を目撃する優羽。
今はまだもう告白なんて出来ないとしても。
⚪回想終了
僕は悲しくない時間を増やす,手助けがしたい。
追いかけてくる綴を振り返る優羽。
綴は息を整えペースを落とす。
「私。りっちゃんとか,優羽くんとか。何かあった時に気づいてくれる友達がいて,良かった」
綴の目が,優羽をとらえる。
「安心する!」
破顔した表情に,真っ赤になる優羽。
そんな人だから。
今はまだ友達でも,僕は君が好きなんだ。
夕日を見上げ,潤む瞳を隠す。
⚪家の数メートル手前
「あそこ?」
「ううん,その2つ向こ……」
?!
家の前に鈴の姿を見つける綴。
「じゃなくてその向こう」
嘘付いちゃったけど,鈴くんは何して……?
鈴の背中を斜めに見つけて,どきんと固まり笑顔を張り付ける。
「ああ! あそこ」
鈴の前に人影を見つける綴。
誰かと話してるのかな。
声はかけてこないよね?
どきどきと俯いて通りすぎようとして,相手の髪の長さに顔をあげる。
腰までのロング……
「鈴くん,やっぱり私は納得できない!!」
抱きつかれる鈴が冷静に綴を見る。
「どこ行こうとしてんの? 綴」
ええ。
混乱に何も言わない綴。
目を丸くする優羽。
「綴って,え。清水鈴?」
思わず呼び捨てにしてしまい,はっと口を塞ぐ。
男の存在に,優羽を冷たく睨む鈴。
「誰?」「どちら……さま?」
取り敢えず相手の女の人が気になるロングと綴。
「誰?」
「あ,いや……」
威圧する鈴と,?を飛ばし未だ纏まらない優羽。