「副社長!別にどんな名前でも構いませんが、せめて統一してください!」

テラスに連れ出し、周りに人がいないのを確かめると、仁王立ちで副社長に詰め寄る。

「私を『ともこ』と呼ばれたのに、その後『きょうこ』とおっしゃいましたよね?それでなくても先程の女性は、何か疑わしいと勘づいておられるようでした。よろしいのですか?これがお芝居だとバレても」

ああ、もう、うるさいな、と文哉は顔をしかめながら呟く。

「ちょっと名前を間違えたくらいで、そんなにガミガミ怒鳴ることないだろう?」

これだから女は…と小さく独りごちたつもりが、どうやら聞かれたらしい。

「副社長。それ、セクハラですよ。それに私は、名前を間違われたことに抗議しているのではありません。そんなボロを出しては、すぐに嘘だとバレますが、よろしいのですか?と申し上げているのです」
「分かったよ!次からは間違えない。それでいいんだろ?」

大きくため息をついてから、顔を上げて聞く。

「それで、どっちが正しいんだ?ともこか?それともきょうこか?」
「どっちも違います!!」

更に大きな声で咎められ、文哉はまた顔をしかめた。