恋は秘密のその先に

「副社長……あの。わあ、とってもかっこいいですね!」

 話しをするはずが、文哉のタキシード姿があまりに素敵で、真里亜は思わず目を奪われる。

「いいから、早く出て来い! 何をやっている?」

 文哉が苛立った声で言う。

「あのですね、わたくし今夜は奥ゆかしい日本女性として振る舞いたいと存じます」
「はあ?! 何を言っている?」
「ですから、副社長の後ろを半歩下がって静々とついて行きます。副社長は決して振り返らないでください。私の姿を見てはなりませぬ」
「なんだそれ? 鶴の恩返しか?」
「左様でございます。姿を見られれば、私はあなた様の前から姿を消さねばなりません」
「アホなこと言ってないで、早く出て来い!」

 文哉が強引にドアを開けようとして、真里亜は必死で抵抗する。

「わー! 行きますから! 先に、前を歩いてください!」
「ったく……」

 文哉は諦めたようにくるりと踵を返して歩き始めた。

 真里亜はその後ろにささっと近づき、静かについて行く。

 廊下に出ると文哉は急に立ち止まり、真里亜のウエストを抱き寄せた。

 ひえっ!と真里亜が身体をこわばらせた時、文哉が、ん?と真里亜を見下ろそうとした。

 真里亜は文哉の頬に手を添えて、グイッと前に戻す。

「ですから、見てはなりませぬ」

 はあ……と大きくため息をつくと、文哉は前を向いたまま真里亜の腰を抱いて歩き始めた。