ところが、だ。

 翌朝、大学の学食で昼食をとっていたときだ。隣に座っていた鈴菜が突然手を上げた。

「和也君だ」

 と。
 しまったと思った。
 そうだった。和也とは同じ大学だったのだ。

 鈴菜に気が付いた和也は、うどんを乗せたトレーを手に、私の斜め前、鈴菜の前に座った。

「紹介するね。昨日熱出して来られなかった彩美。彩美、こちらは和也君」

 私は内心舌打ちした。せっかく合コン断ったのに、こんな形で結局出会うなんて。

 私は黙ったまま小さく会釈した。

「あー、君が噂の彩美ちゃん! もう熱は下がった? まだもしかして具合悪い? 大丈夫?」

 人懐っこく笑いかけて来た和也はやはりかっこよくて、私の胸がとくんと跳ねた。

 だめなのに。なぜなの? 和也は私にとって何なの? 
 あんな結果になると分かっているのに、どうしても惹かれてしまう。
 だめ。また殺してしまうかもしれないのよ? 和也が好きなら、和也には近づかないほうがいい。
 私は無理矢理自分の気持ちを抑え込もうと必死になった。

「彩美ちゃんって、可愛いね〜! 俺、かなりタイプだな。スマホの番号交換しようよ?」

 可愛いと言われたことを嬉しく思ってしまう自分を心で叱る。ここでスマホの番号を交換したら絶対だめだ。

「すみません。私、面倒だからあまりスマホの番号は教えないようにしてるんです」

 困ったように笑ってそう答えた。鈴菜が隣で驚いた顔をしているけれど見ないふりをした。流石にこう言えば和也も諦めるだろう。ところが和也はひかなかった。

「ダメなの? 俺、完全に脈ないってやつ?」

 悲しげな和也の顔。
 分かってる。和也は誰にでもこんな調子なのを。それでもこんな顔させるのは胸が痛む。けれど。
 私は心を鬼にした。困った笑顔で首をかしげてみせる。これで和也が諦めてくれると信じて。
 気まずい空気が流れた。私は、

「ごめん、まだ体調良くないから」

 と席を立った。

「彩美ちゃん。俺諦めないからね」

 後ろで和也が言うのを聞いた。
 嬉しい。そして、怖い。
 どちらも本当の気持ちだった。