「それで、俺たちには幸い子供がいない。
彩美もまだ若いし、新しい人生を歩んで欲しいんだ……」

 幸い? 新しい人生?

 和也の言葉は私に追い討ちをかけた。
「な、何言ってるの……?!」
 信じられない。
 こんな未来はなかった。
 浮気はされても、浮気相手に子供ができるなんてことは!
 こんなの嘘だ! 
 何もかも間違っている!

「彩美、本当にごめん。でも、子供を見捨てることはできない。子供に罪はない。だから、別れて欲しい。もちろん慰謝料は払うから……」

 何を言ってるの? 和也は。
 子供に罪はない?
 そうね。罪は和也にあるだけよ。

 何のための幸せ?
 誰のための幸せ?
 私は和也に尽くしてきた。
 自分のことを犠牲にしてでも、和也のことを優先してきた!

 何故なの?
 子供が欲しい私には子供が出来ずに、なぜ遊びの女に子供ができるの?!

 老けたから?
 私が老けたからなの?
 だから子供もできないの?
 和也は母親みたい、というの?

 いつからなの?
 いつから和也は私を裏切っていたの?!

 もう訳が分からない。

 退屈な日々に耐えてきた。
 不安な日々に耐えてきた。

 私には何も残らない。
 和也も。子供も。
 何も。