「彩美のこと、愛してるよ」
「そ、そう。ありがとう」

 私が困った笑顔で返すと、和也は急に涙を流した。
「かず……や?」
「すまない! 彩美! 俺、子供ができた」

「ーー!!」

 声にならない悲鳴が口から漏れた。

 子供? 子供?! 子供!!

 あ、ああ。
 あああああああああ〜!!!

「う、嘘よ! 私にはずっとできなかったじゃない!! 嘘!  嘘!」
 私は涙を流しながら、声を張り上げた。きっと般若のような顔になっているはず。
「今日、婦人科からもらってきたって写真を見せられた」
「嘘よ! その女が嘘をついてるんだわ! 和也の子供じゃないのに、和也の子供って!!」
「そこまでは、分からない。でも、関係はあった。何度か。でも、遊びだったんだ。会社の部下で」
「嘘! スマホチェックしてたもの! 浮気はしてないはずよ!」
「……知ってたよ。前のこともあるし、削除してたんだ」
「酷い! 酷い!  酷い!!!」

 低く呪うような怒号が私の口から出た。

「ごめん……。でも、事実なんだ。それで……」
 和也の言葉を遮って、私は和也の背広を和也に投げつけた。
「汚い! 酷い!  最低! 愛してるって、言ったじゃない! 幸せって言ってたじゃない!! あれも何もかも嘘だったのね!」
「嘘じゃないよ。愛してはいたよ。彩美のことは母親みたいに思ってたよ……」
「母親?! 馬鹿にしないで! 私は和也の妻よ!」

 私は頭を殴られたようなショックに、フラフラとシンクの方へ行って、手をついた。