「そうだよね。お母さんもそう思う。全然、仁のこと知ろうとしなかったから」



「そうだな、仁のこと知らなすぎた。親として恥ずるべき行為だな!」



母さんや父さんも少しだけ微笑むように、

優しく頷いてくれた。



「仁!お母さんたちも変わるから。言いたいこと遠慮せずに言ってちょうだい」



「そうだぞ!昔みたいに戻れるさ!もう怒鳴ったりしないから!さあ、父さんのハンバーグ一個やるから」



「いいよ、別にハンバーグわ」



食べ物でまず、先手を取ろうとする父さんに照れ笑いを浮かべる。



もう子どもじゃないんだから、

そんなんで喜べないよ。



でも、不器用なりにコミニュケーションを取ろうとする父さんに、僕の心は喜んでいた。



「なんでだよ!仁、ハンバーグ大好きだったろ?」



「いや、好きだけどさ、俺が一番好きなのは親子丼だからね!知らなかったでしょ?」



僕の情報なんて、小学校で止まっているはず。



母さんも父さんも知らなかった分、

己を恥じて知った分、喜びを噛み締めていた。



「えっ!そうなの?」



母さんは驚きながらも、

嬉しそうに聞いていた。



「それにピーマンも茄子も嫌いじゃないから!今では食べれるし好きなぐらいだよ」



「一緒にいて全然知らなかったんだなぁ。母さん今度、親子丼作ってやったらどうだ?」



何気ない会話だけど、

嬉しそうに会話する両親を見ては、

心が温もった。



「そうね」



「てか、父さん!おにぎり、わやくそじゃん!」



父さんが手に持っているぐちゃぐちゃに巻かれたおにぎり。



ずっと気になっていたけど、

今になって笑けてくる。



ちょっとしたことが可笑しくて堪らなかった。



「ホント不器用な人だからね!お父さんに似なくて良かったでしょ?ふふ」



「だね」



家族の笑い合う光景が嬉しくて、

僕は久しぶりに幸せだと感じた。



それに、この日はくだらない会話が永遠に続いた気がする。



だって、

いつもはすぐ自分の部屋に戻るけど、

楽しくて自分の部屋には戻らなかったから。




本当によかった。



今日を境に、一ノ瀬家が本来あるべき姿を取り戻せたのだから。



航兄ちゃんや今田には感謝してもしきれない。



変えたのも変わったのも僕だって言うけど、航兄ちゃんや今田が居なければ、僕は今でも殻に閉じこもっていたと思うから。



ありがとう、こんな僕を救ってくれて。



そう胸にそっと仕舞った。