「お母さん、お願いがあります。

もう少しだけでいんで、一ノ瀬に寄り添ってあげてください。

あいつの本音を聞いて、応援してあげてください。

お願いします」




今田は母さんに向かって、深く頭を下げた。



「先生やめてください……私、初めて見ました」



母さんは涙目になりながら、

今田に頭を上げるよう促した。



「え?」



「あの子のあんな姿……」



「……そうなんですか」



「あの子、反抗期が来ないから育てやすかったんですよね。

ホント、手のかかない子で助かった……。

反抗もしてこないから、何を考えているのかが分からなかったけど、先生に言われて気づきました。

そもそも間違っていたのは私なんだと。

ホント親失格ですよね。

あの子が何を考えをているのかを知ろうとしなかったのだから」



母さんは今まで僕のためだと、思ってしてきたことや僕の考えを尊重しなかったこと、洗いざまに思い出しながら、自分を悔やんだ。



「……まだ間に合いますよ」



今田は救いの言葉を優しく投げかけた。



「え?」



「僕だってまだまだ生徒たちに、何か力になってあげられることがあると思うんですよね。

お母さんだって、きっと彼の力になれるはずです」



「だといんですが……先生、さっきは失礼なことを言ってすいませんでした。親の私がダメなばかりに……」



「いえ、気にしないで下さい!感情的になることはよくあることです。

それより、今日はお帰りになって家族で話しあってみて下さい」 



さっきまでのことはなかったかのような振る舞い。

言われたことを気にしてない様子で、

今田は母さんを勇気づけた。



「はい、ありがとうございます」



母さんは頭を二度下げ、静かに帰って行った。