「待て!一ノ瀬!!」



修羅場に遭遇したかのように、

今田は困惑していた。



それもそのはず。



三者懇談で普通、こうはならないから。



初めてのことにただただ困惑していた。



「はぁ……」



母さんは出ていった僕を見ては、

深くため息を吐いた。



「お母さんの気持ちは痛いほど、分かります。ですが……」



「分かる?失礼ですが、先生は結婚されてませんよね?」



今田の言葉を遮るように、

母さんは鋭い眼光で今田を見ていた。



「え?まぁ……」



「子どもも育てたことがないのに、分かるはずがないじゃない!私はどれだけあの子のことを考えているかァ!!」



母さんの怒り狂った顔。



母さんは訳も分からずに、

今田に当たっていた。



「えっ……確かに恥ずかしいことに、私は結婚もしておりませんし、子もいません。

ですが、お母さん!

私は何千、何万という生徒を今まで見てきました。

結婚してない、子がいないからと言って、子《せいと》を思う気持ちはあなたと変わらないッ!!」



「……」



今田の熱く真っ直ぐな言葉に、

母さんは押されるがままだった。



「高校で勉強するのも大学に行くのもお母さんではありません。

やるのもするのも全部、彼なんです。

子が間違った道を歩くなら、親が正しい道に戻してあげたらいい!

でも今、お母さんがやってることは、何も見えない真っ暗な道を懐中電灯も持たせずに、歩かせているだけです」



母さんは目を覚ますように、口許を覆い隠す。