人生は虹色〜兄が僕に残した言葉〜

「うん。で?……何かあったんでしょ?」



航も先ほどついでに買ったコーヒーに口をつけ、切り出した。



「えっと、はい……」



「おじさんで良かったら聞くよ?」



「その……この前、模試があったんです」



夏実は淡々と航に悩みを打ち明ける。



「うん」



「夏にした模試の結果は良かったんですけど、今回は全然できなくて……」



夏実は休みの日も机に向かって、勉強していた。



部活が終わって疲れた日だって……。



「それで落ち込んでんだぁ?」



「いえ、それだけじゃなくて……私、お母さんと約束してたんです」



「何を?」



「模試や学校の成績が悪くなったら部活を辞めるって!

でも、今まで頑張れてたのは、音楽があったからなのに!

もう吹けなくなるって考えたら、私……どうしたらいいか……」




成績が悪くなったら部活を辞め、その時間を塾に充てる。



そう母親から耳が痛くなるほど言われてきた。



「そっか、お母さんが厳しい方なのかは知らないけど、絶対辞めないといけないの?」



「親の言うことは絶対なので……」



夏実の顔は下を向いたままで、気持ちは沈んでいた。



「絶対か……夏実ちゃんはいつも我慢してるんだね?」



「はい……」



「自由じゃないって辛いよね?」



航の問いかけに夏実は、だんだんと辛くなってくる。


さっきまで、代わりに空が泣いてくれていたのに……。



今では、一粒の涙が溢れていた。



「ゔぅ……はい」