「いやァ〜待ちくたびれたわァ〜」


僕は下手な芝居に打って出る。



「え!そんなに待たしてたぁ?」



「いや、ゆーて俺もさっき来たばっか」



肌寒かった午前とは違い、半袖でも大丈夫なぐらい午後は暖かくなり、夏実がいる事で居心地は晴れやかだった。



「何それ、うざ!ふふ」



「はは。じゃあ、行こうぜ!」



僕は停めていた自転車に跨ると、夏実に向け、後ろに座るよう目で合図を送った。



だけど、中々乗ろうとしないものだから、時間だけがただただ過ぎて行く。



「ん?何してんの?早く乗れよ!」



「え!!えっと、その……」



夏実は何か躊躇うようにして、少し頬を紅くしている。



早く乗ればいいのに、どうしたのだろう?


はては?

俺はまだ夏実に信頼されていないな。



「ん?あれ?!もしかして……二人乗りが怖い感じ?」



「えッ?!そっち?ふふ」



僕のまさかの返答に、夏実は可笑しくなったのか、僕を見てクスッと笑っていた。



「えッ!?うん?……そっち?」



僕は何で笑ってるの理解に苦しみ、頭の中がこんがらがっていた。



なぜ笑らわれているのか、意味が分からない。



僕が免許持ってないから怖くて乗れないんだろ?(自転車に免許なんてないだろ!!)


でも、次の夏実の発言で僕は全てを理解した。



「その……彼女でもないんだから、乗るの抵抗あんじゃん!」



「はぁ?なんだよ、そんなことかよ!別に関係ねえから早く乗れって!」



「もぉ〜強引だな。そこまで言うなら仕方がないなぁ(別にそこまで言ってません)。その代わり、変なことしないでよね」



夏実はたいぎそうに振る舞うが、顔は嘘をつけない。



「するかッ!!!逆に前乗ってんだから、できやしねぇだろ?!」



「ふふ、一応言っとかないと!可愛い女の子が乗るんだし」



僕の耳許で優しく囁いては照れ笑いを浮かべ、僕の後ろへと夏実は跨った。



「はぁ?誰のこと言ってんだよ?!」



半分、冗談で揶揄っただけなのに、夏実はいちいち魔に受けて、僕の背中を叩くばかり。



さっきまでぎごちなかった乗り方も様になるぐらい、今では距離感を感じさせないぐらい親密さを感じさせていた。



「ちょッ、なんか言った?」



「いっ……いや、何も言ってないです!」



「ふふ、また余計なこと言ったら、すぐ叩いてあげるからね」



僕はその後、結局夏実に何回背中を叩かれたことやら。



そして、何回行き道中、夏実と笑い合ったことやら。



楽しくて数えるのも忘れていた。