僕も夏実が出てくるのを待つため、

会場から出てすぐのところにあるエントランスホールへと向かった。



夏実が来たら、絶対に演奏家になった方が良いと伝えよう。



今日の生演奏を聴いて、僕は伝えたい気持ちを整理するようにして壁にもたれかけながら夏実の姿を探した。



夏実の本当のやりたい夢、それは演奏家になりたいということであって、

親の敷かれたレールを歩こうとする夏実に、

僕がどうこう言える立場ではないけど納得することができなかった。



あんなにも演奏一つで人の心を魅了することができるんだから勿体無い。


そうこう思い考えていたら、夏実が僕を見つけては笑顔で歩み寄って来てくれた。



「仁くん、来てくれてありがとう!どうだった?」



「え?あ……なんつうか、心に響くっつうか、何て表現したらいいか分かんないけど、めちゃくちゃ聴いてて気持ち良かったよ」



一番伝えたかった気持ちも、

急に現れた夏実を前に無残にも無くなってしまう。



僕は思ったままのことを口に出し、夏実の表情を確認しながら本当のことを言えた気がした。



「でしょ?いっぱい練習したんだから」



「うん。たくさん練習したんだろうなって凄く伝わったよ」



「ふふ、それにしても赤いからすぐ分かっちゃった」



「え!あッ、やっぱり?着て来て正解だったな、はは」



僕が観に来てくれて嬉しそうにする夏実を前に、僕は照れ笑いを浮かべることしかできなかった。



彼女は僕の前では楽しく、気丈に振る舞ってくれる。



「私に気付いてもらうために着て来たの?」



「そうだよ!」



「なんか笑える、ふふ」



「何でよ?」



「え?別に何でもないけど、ありがとう。嬉しかった」



夏実の少し恥ずかしそうに、

頬を紅くさせた表情を見て、僕は安堵する。



「そう……あっ夏実?」



「うん?」



「明日ってさ、何かあったりする?」



「え!明日……明日は何もないかな〜。なんかあるの?」



「あのさ!明日、秋祭りあんだよね。だからさ、どうかなって!」



僕は忘れないうちに、

自然な感じで何気なく訊いてみた。