晩秋——



「仁くん!やっぱ、ここに居たんだぁ」



「そうだけど、なんだよ?……あれぇ?もしかして俺に無性に会いたくなったとかァ?!」



あれから森本さんとは呼び方も変わり、僕のことを仁くん、僕は森本さんのことを夏実《なつみ》と呼び合うまで仲は深まっていた。



僕は教室がある校舎とは別の校舎の階段で、いつものように焼きそばパンを頬張りながら、僕は夏実のために買っておいたジュースを投げ渡す。



夏実は少し驚きながらも、ジュースを上手に受け取った。



「いやいや、それはないない!席隣だし、いつも会ってるから、なんなら見飽きてる!」



「おいおい、見飽きてるってなんやねん!飽きない顔だねって、こっちはよく言われとんねん!」



「どこが……飽きない顔よ、ふふ。そんなことより、いよいよ明日だよォ!何か緊張してきたァ」



明日は待ちに待った夏実たち吹奏楽部による定期演奏会が披露される日だった。


地域の人たちに合奏を聴いてもらい、地域の人達を元気づける催し物。



夏実は微笑みながら、僕が焼きそばパンを平らげるのを見守っていた。



「緊張って!夏実でもするんだァ?」



「そりゃあ、するよォ!大勢の人達の目の前で演奏するんだから〜。あッ、ジュースありがと。頂くね」



そう言いながら僕の隣に座ると、

夏実はさっそく貰ったジュースを一口だけ飲んだ。



何も知らない夏実は僕があげたジュースにまだ何も気づいていない。


ペットボトルの底に、

力強く『ガンバレ』と書いてあることなんて。



俺は言葉で直接伝えるのがなんだか照れ臭いものだから、ペットボトルにメッセージを印し、いつか気づいてくれたらいいなぐらいの感じだった。