「えっ!……ちょっと、待ってよ〜」



僕の姿が消え、

森本さんは慌てる様子で、

机に置いてあった鞄を持ち、

僕を追いかけた。



険悪だった雰囲気は、

優しく包み込まれ、

心地良い空間に生まれ変わっていく。



「そう言えば、演奏会近いって言ってたっけ?」



僕は下駄箱で上履きから靴に履き替え、森本さんに尋ねた。



「うん、来週の土曜日だけど」



「来週かぁ……じゃあ、暇だし行くわ」



「え!それ、本気で言ってる?」



靴に履き替えた森本さんは僕の隣に来て、驚きながら僕の顔を覗き込んだ。



「うん、本気で言ってる!森本さんの演奏、続き聴いてないし」



「それじゃあ……来てよ!文化センターでやってるから!」



少しだけ戸惑っていた森本さんから、満開の笑顔を見ることができた。


これは来て欲しい時の顔だな。

森本さんの表情を見て確信した。



「うん、行く行く!文化センターって———」



僕も微笑み返し、

会話を楽しみながら、

一緒に駐輪場まで向かう。



二人は自転車に乗ると、

髪を靡かせながら並走し、

終わらない会話を楽しんだ。



紅く染まった空が僕たちの笑った顔を優しく見つめ、

河川敷に咲いた草花が僕たちの話しに耳を傾けている。



「じゃあ、また明日」



帰る道が枝別れになり、

森本さんは僕に優しく手を振ってくれた。



「うん、また明日」



僕も森本さんに手を振り返し、

森本さんは笑顔で帰って行く。



彼女の後ろ姿を見て僕は思った。


今日は仲直りができ、そして、壁がなくなり、本当に良かったと。