早く言いたい気持ちが暴れだそうとしていたけれど、僕の携帯電話が突然、鳴り響く。
画面に映し出される名前。
母さんだった。
「もしもし」って僕が出た時、
受話器越しから伝わる母さんの微かな震え。
荒っぽい鼻息、
そして、
嫌な予感が頭をよぎる。
「航が……航が……」
「え?」
「倒れた……ど、どうしよう」
嫌な予感は的中する。
母さんは震えるようにして、泣いていた。
僕は拳銃で撃たれたかのように、頭が真っ白になり、驚きという衝撃が身体中を熱く走っていた。
何で?
どうして?
死ぬの?
息苦しい不安が僕を苦しめていく。
「今、病院にいるんだけど……意識が戻らないの!」
「何で?!何があったん?」
「仕事中に……急に倒れたんだって!」
今日まで元気だったじゃないか。
航兄ちゃんに限って、死ぬはずがない。
僕はそう強く思い込むしかできなかった。
絶対、航兄ちゃんは死なない。
何回も何回も津波のように、押し寄せてくる恐怖心から逃げるのに必死だった。
「今から行くから!どこの病院?」
僕は燈也たちの面倒なんか我に忘れて、いつでも飛び出せるように動いていた。
自分の目で確かめないと、
居ても立っても居られなかったんだ。
「亨がここに来る途中に、拾ってくれるみたいだから一緒に来て」
「え!分かった」
僕は急ぐ気持ちを堪え、亨兄ちゃんを待った。
母さんの隣で琴美姉ちゃんの泣き声も聞こえたし、父さんも母さんから聞きつけて、病院に向かっているはず。
家族全員がこの時、不安で仕方なかったに違いない。
燈也たちにはなんて言おうか?
今の僕に考えられる冷静さはもうなかった。


