見渡す限り、人工物のない景色。どこまでも続く青い空と、そこに綿あめのようにぽっかりと浮かぶ雲。
 それはいずれ大きな嵐を連れてやってくる。車が汚れる。
 停電しないかな。大人はみんな、大きな雲を見れば口を揃えてそう言うけれど。

 世界は、本当はそんなつまらないものじゃない。
 世界には元々、化学や理論や根拠なんてものはないのだ。

 そう、かつての宙には物語があった。

 今はほんの少しだけガラスが曇ってしまっているだけ。だって、この世界に散りばめられているのは、自由と、神秘と、ときめきだけのはずなのだから。

 世界はまるで、あの子の大切なおもちゃ箱。ひっくり返したら、ガラス玉やカラフルなボタンやぬいぐるみ、それから誰かの夢や希望が床の上を転がり出す。
 それらはこてんと転がると、それぞれ意志を持って動き出すのだ。

 好き勝手に音楽を奏でたり踊り出したり、はたまた旅に出てみたり。自由できままなサーカスが始まる。
 おもちゃの楽器たちが指揮棒を振って歌い出せば、空には半透明の譜面が生まれる。

 それはいつしか、あの子を導く線路に変わるのだ。煌めく星屑を散らしながら、銀色の列車がガタンゴトンと走っていく。
 紺色の空をキラリと流れた星は彼方の誰かの夢を叶えて、どこからか吹く風は、誰かのころころとした楽しげな笑い声を連れてくる。

 けれどそれは、いつか消えるもの。
 大きくなれば、夢や希望はしぼんでいく。代わりにふくらむのは、底のない不安と恐怖だ。
 ふくらみ続けたそれらは次第に夢や希望を呑み込んで、カラフルな世界は一転、モノトーンに塗り潰されていく。おもちゃ箱は固く閉じられ、鍵は錆び付き、もう二度と開かなくなってしまうのだ。あの頃はいつだって世界はカラフルで、あんなに夢に溢れていたのに。

 いつからこんなに、世界は色を失くしてしまったのだろう――。