店の人が作った料理なら食べられるけど、手料理は、結衣子かお義母さんの作ったものしか食べられない俺には、隣の枚岡家は安心してメシを食べられる場所として、今も認識している。
 つわりが始まっていてもおかしくない時期だ。無理をして欲しくない。しばらくは、枚岡の家で食べてもいいのだが……。
 今後のことを枚岡家で話しておかないとな。

 でも、確かにそうだ。今日は特別な日だよな。
 俺とも結衣子とも血が繋がった子供。その子を通して、俺たちは本当の家族になるんだ。

「わかった。うん。今日は特別な日だよな。結衣子がせっかく作ってくれたんだから、早く食べよう。二人でお祝いだ!」

 それから俺たちはたくさん話をした。
 男かな、女かな、どっちに似てるだろう?

 結衣子は男の子じゃないかと言う。
 正直、俺もそんな予感がするけど、男だったら……絶対に結衣子の取り合いになる。いくら息子でもそれは許さん。

 いや、待てよ。女の子だったら嫁に出すのか?
 結衣子にそっくりな、可愛い可愛い女の子を手放すのか? ……ありえん!

 そう考えると、そっちの方がもっとイヤだ! やっぱり男の子でいい!

 ……まあ、無事に生まれてくれるならどちらでもいいんだけど。

 その日は結衣子をそっと、宝物のように抱きしめて眠った。


 幸いなことに、結衣子のつわりはそう酷くなく、少しのムカつきと、主には眠気との闘いだった。

 しかし、運動会なんて行事は無理をさせられない。俺は休みを取り、救護テントの手伝いを買って出た。

 これでも一応小児科医だ。誰も文句は言わないだろう。

 途中、前川のバアさんも手伝いに来たので、結衣子は休ませ、ほとんどの患者を2人で回した。引退しても、さすがの対応能力。俺の負担はグッと減った。

 前川のバアさんも、結衣子が気になって仕方がないらしい。
 暑くない? 横になった方がいいんじゃない? と世話を焼きまくっていた。

 そんなこんなで、不安定な時期を乗り切り、安定期に入った。