旅の始まりは荷造りである。キャリーケースに着替えや化粧品など、必要なものを詰め込んでいく。その瞬間から中野雪(なかのゆき)は胸を弾ませている。

「今年も無事にチケット取れてよかった〜!またあのホテルに泊まれる!」

キャリーケースに荷物を詰め込みながら雪は言う。その顔には自然と笑みが浮かんでいた。気を引き締めようとしても、浮かれてしまった今はすぐに頬が緩んでしまう。

キャリーケースには着替えの他に、あるものが詰め込まれていた。推しの名前が書かれて飾り付けがされたうちわ、推しの色のペンライト、前回のライブで購入したタオルなどである。

雪の今回の旅の大きな目的は、推しのライブに参戦することだ。推しのバースデーライブはいつも推しの地元である近畿地方で行われる。毎年雪はそのライブに参戦しているのだ。

「うわ〜、すっごく楽しみ!今日寝れるかな……」

ドキドキとまるで恋に落ちたかのように高鳴る胸を押さえ、雪は息を吐く。決してリアコではないのだが、推しのことを考えるとまるで恋をしてしまったようになってしまう。