麗矢様のナイショの溺愛


* * *


 おしゃれなカフェでティータイム。


 映画館でラブストーリー鑑賞。


 服屋でショッピング。


 普通のデートコースを、彼氏ではない人と回っていくのは不思議な感覚だ。


「響、俺に似合いそうな服、選んでよ。俺は響のを選ぶから」
「私がレイのを? センスないから嫌」


 レイ。


 “様”付けを禁止されて、悩んだ結果の、愛称。


 敬語がないことだって、違和感しかない。


 だけど、麗矢様本人がそれを望むのだから、応えるしかなかった。


「……ダメ?」


 跡取り息子と使用人という関係性がなくなった途端、彼が同世代の男の子にしか見えなくなってしまった。


「……わかった」


 自分の見た目を武器に使われると、勝てるわけがなかった。


 いつもの私なら、もう一度拒否をしていただろう。


 その、いつもの反応ができないことを、麗矢様は満足そうに見てくる。


 これを居心地が悪いと捉えるか、照れていると捉えるか。


 きっと、後者だ。


 それがわからないほど、自分の感情に鈍感ではない。


 だけど、素直になる勇気は持ち合わせていない。


「響」


 麗矢様の服を選ぶ余裕もなく、ただ服に触れていると、名前を呼ばれた。


 そうかもしれないと思い始めたせいで、名前を呼ばれるだけで、心拍数がおかしくなる。


「これ、着てみて」


 私は言われるがまま、服を受け取って試着室に逃げ込んだ。