* * *


『秋月響です。よろしくお願いします』


 一ヶ月前、俺の家にやってきた同い年くらいの女の子。


 響は、俺を見ても表情を変えなかった。


 大人っぽい笑顔で対応されたとか、そういうことではなく。


 ただ無表情だった。


 その冷たい瞳に、俺が映っているのかすら、わからなかった。


 そんな反応は初めてで、俺が響に興味を持つには、十分な理由だった。


 だけど、今ではそれだけじゃない。


 俺は、響の笑顔が見てみたい。


 いや、笑顔じゃなくてもいい。


 とにかく、あの無表情が崩れるところが見たい。


 そのために専属世話係になってもらったのに、今のところ全敗。


 響は全く表情を崩さない。


 さすがに心が折れてくる。


 あの無表情を思い出して、ため息をつく。


 こんなことなら、もっと女の子が喜ぶことを知っておけばよかった。


 いや、今からでも遅くないか。


『麗矢、何してるのー?遊ぼうよー』


 こうしてお誘いの連絡がくるわけだし?


 俺は制服から私服に着替えて、部屋を出る。


 廊下を歩いていると、庭に響がいるのが見えた。


 いつも通り無表情で庭の掃除をする響に、一人の男が近寄る。


 なんだか、親しいように見える。


 ……誰だよ、そいつ。


 そんな嫌悪感を抱いていると、俺は信じられないものを見た。


 ねえ、響。


 どうしてそいつには笑顔を見せるの?