麗矢様のナイショの溺愛


* * *


 麗矢様とデートをした翌日。


 メイド長室の前に立ち、深呼吸をする。


 ノックをした手は、少しだけ震えていた。


「はい」


 メイド長の凛とした声が返ってくる。


「失礼します」
「どうされましたか、秋月さん」


 直接声を聞き、その表情を見ると、より一層緊張して、声が出なくなる。


 だけど、メイド長が無駄な時間を嫌っていることを知っているから、早々に覚悟を決める。


「すみません、メイド長。私、麗矢様のことを好きになってしまいました」


 無言の時間が、つらい。


「それで?」
「仕事はきちんとします。だから、クビにしないでください」


 私は頭を下げる。


 望みは薄い。


 メイド長に認めてもらえるほどの仕事を、してきたとは思えないから。


「言葉だけではなんとでも言えます。態度で示しなさい」


 至極当然のことで、背筋が伸びる。


「はい」
「さすが松永。そう言うと思った」


 私の返事に続いて、背後から麗矢様の声が聞こえた。


 ちゃんと閉めたはずの扉から麗矢様が顔を覗かせている。


「盗み聞きなんて、お行儀が悪いですよ」


 メイド長はため息混じりに言う。


「仕方ないじゃん。松永が響をイジめないか、気になったんだから」


 麗矢様は言いながら、私の傍に立つ。


 その視線が優しくて、私は目を逸らしてしまった。


「しませんよ、そんなこと。さあ、秋月さん。お仕事の時間です。麗矢様は邪魔をしないように」
「はいはい」


 麗矢様はメイド長の言葉を適当に聞き流しながら、私の腕を引いて、メイド長室を出る。


 今からの仕事に支障をきたしそうだから、手を離してほしいのに、このまま繋いでいたいと思う私もいた。