麗矢様のナイショの溺愛


* * *


 麗矢様にプレゼントされた服を着て、麗矢様の隣を歩く。


 私が着ていた服はあのお店の紙袋に入れられ、麗矢様の手元に。


「麗矢様、それ、私が持ちます」


 すると、麗矢様は少し不満そうに私を見た。


 しまった、罪悪感から慣れた言い方をしてしまった。


「かっこつけさせてよ」


 本物のデートになってしまうと、もう、前の関係性に戻れないから、困るのに。


 麗矢様に特別扱いされて、喜んでいる私がいる。


 ああ、もう、ダメだな。


『仕事はゆっくり覚えてもらって結構。ただし、麗矢様にうつつを抜かすようであれば、即クビです』


 採用されたとき、メイド長に唯一の条件として言われたこと。


 好きになれば、終わり。


 これはもう、間違いなくクビコースだ。


 そうなったら、今みたいに麗矢様に会うこともできなくなる。


 その未来を想像して、私は涙ぐんでしまった。


「響?」


 私の様子がおかしいことに気付いた麗矢様は、戸惑いを隠せていない。


「ごめんなさい、麗矢様……私……」


 麗矢様はそっと、私の頬に触れる。


 麗矢様まで、わずか数センチ。


 越えることの許されない距離に、胸が苦しくなり、私は麗矢様から離れる。


「ねえ、響。俺は、響が好きだよ。響が欲しい。響は? 俺のこと、好き?」


 首を横に振れば、まだ麗矢様の傍に居られる。


 でも、できなかった。


「……言いたく、ない」


 麗矢様の表情が、少しだけ歪んでいた。