「麗矢先輩、これ、もらってください」


 どうなってんのかわかんない、おしゃれな髪型の毛先が揺れ、ほんのりと甘い匂いがする。


 まるで花に吸い寄せられるかのように、差し出されたクッキーに手が伸びる。


 手元が軽くなると、彼女は顔を上げて、口角を上げた。


「ありがとう」


 俺にクッキーを渡すことが目的だったようで、彼女は少しだけ頬を赤らめると、そのまま去っていった。


「相変わらず、モテるのな」


 少し離れた場所から見ていた流星が憎しみの籠った目で、さっきのクッキーを見ている。


「今週何回目だよ」
「さあ?」


 女子からのプレゼントなんて、いちいち数えていられるか。


「麗矢、今日もイケてるね」
「ありがとう。スズも最高に可愛いよ」


 別れの挨拶のように、気軽に交わされる言葉たち。


 気持ちが籠っていないのは、俺が一番わかっている。


「お前……いつか嫉妬で殺されそうだな」
「なんだよ、それ」


 流星に返しながら、ふと、ある考えが過ぎった。


「響、これ見たら嫉妬してくれるかな」
「……くだらね」


 流星の呆れた声なんてどうでもよくて、俺は家まで急いだ。