澄ましたメイドのご主人様。




「……っ……ふ」



私はトンっと震える指先で茉俐の胸板を押した。

あっさりとその身体が離れていく。

嫌なことはしない,そのスタンスは相変わらずだ。



「茉俐様……っ,今,確実にやりすぎましたよね」



何をなんて口にすることも出来ない。

ファーストキス,それを差し置いても2人での最初のキス。

なのに,あんな。

信じられない思いで,私は口を通り越し鼻から下を覆う。

茉俐の行動もだが,自分から漏れた音が何より信じられない。



「様って,またついてる。それに敬語も出来れば取って欲しいな」

「そんなの今は」

「花蓮が言ったんだよ? 軽くの定義は自分でしろって。だから,決めたんだ」

「なにを」

「花蓮が嫌がらないぎりぎりを,軽いことにしようって。そうすれば,深くなればなるほど俺の嬉しさが倍増する」



なんてこと,いうの。

悪魔のようなことを,満面の笑みで披露してくる。

それに私,あれをぎりぎりだなんて



「それとも,嫌だった?」



ああ,もう,なにもいえない。

ずるい,分かってるくせに。

全部全部自分だけ分かってて



「……可愛い」



ふっと勝ち誇ったように甘い瞳で,私を見つめるんだから。



「敬語は今後もつけるから」



なんて既に敬語じゃない言葉でむすっと見れば,その頬を茉俐はうにゅんと両手で挟んだ。



「ごめんね,花蓮……あぁもう,ほんとに可愛いなぁ」



先ずはその,可愛いからやめてください。

パッと手を離して,今度は添える茉俐。

そっと,私の頬にキスを落とした。