澄ましたメイドのご主人様。

「茉俐様が望むなら……なります。恋人。仕事ではないけど,嫌なことでもないので」



私は今,花蓮となんちゃってメイド,どちらで話してるんだろう。

大半は,花蓮だ。

でも,こうでもしないと,バイトの身分を借りないと,返事1つ出来ないなんて。



「……花蓮,顔,ちょっと赤いの気付いてる? だめだよ,ちゃんと言ってくれないと。俺は花蓮の質問,ちゃんと答えたのに」

「え……」



確かに,茉俐様が勝手に言った訳じゃない。

私が言ったことに対する返答をしたのに,お前はしないのかと言われると……立つ瀬がない。

はくはくと口が空く。

まさかこんなにも唐突に,それも自分のせいで。

羞恥と良識の間で揺れてしまう。

すっと息を吸って,少しだけ茉俐様を見た。



「私も……茉俐様の事が好きです」



その途端,ふやけた表情の茉俐様に抱き締められる。

今の顔……あれだ,可愛すぎる我が子を抱き締める母親,みたいな。



「好きだよ,花蓮」



そうは思っては見ても,結局は茉俐様。

甘さを多分に孕んだセクシーな声が耳元から届いた。



「あ,あかい」



茉俐様側の耳を塞ぎ,距離を取る。

震える唇と瞳で見上げれば,茉俐様は一層妖しく笑った。

この人,少しくらい……!

と思うけど,それが今までだったのかななんて納得してしまい,困惑する。

また,今度はあやすように引き寄せられて,私は腕の中に囚われた。



「付き合うなら,このくらいの触れ合いはいい?」

「軽く,なら」

「キスは?」



途端にいい淀む。

そんな真っ直ぐ聞くようなことじゃ,ない。

普通に考えるなら,恋人なら普通のこと。

でも,こんな最初から聞かれると……分からない。



「軽く……なら」



苦し紛れに出たことば。

私を追い詰めるように,近くまで来た茉俐様の顔が笑う。