澄ましたメイドのご主人様。

ーコンコン


初日だからと,お昼を回ってからまたやって来た私。

危なげなく茉悧様の部家までたどり着け,ノックをした。



「……?」



茉悧様からの返事はない。



「花蓮です,茉悧様。入っても良いですか?」



こちらから声をかけて良いものかと躊躇うも,私は落ち着いた声をかけた。

まさか,寝ているなんてことはないと祈る。



『……ふふ,うん,いいよ』



やけにテンションの高い返事。

これは完全に遊ばれたなと,私は目蓋を落とした。

そのまま背筋の伸びた姿勢でドアを開ける。



「……わ」



ツンっと横から引かれ,前に倒れた。

すかさず横から現れた人影が,私の前に来る。

ぽすっとぶつかり,顔をあげる私。



「何してるんですか,茉悧様」



そんな子供みたいな。

私が部家の前に立ったとき,部家に人の動きは無かった。

つまり



「どうして私だって分かったんです?」

「最初がそれなの? 面白いね,花蓮。大したことじゃないよ。花蓮の足音が,皆とちょっと違うの。それに,ノックも卵割るくらいの自然な音がする」

「そうですか,すごいですね」



聞き分けるなんて,私に出来るだろうか?

そんなに繊細に生まれてきた覚えはない。



「違うよ,花蓮。俺が,来るかなって花蓮を待ってたから分かったんだ」