澄ましたメイドのご主人様。


「……絶対にないとは,言えませんね」



人の心は複雑だ。

どんなに不細工で,どんなに性悪で,どんな犯罪を犯す人間が相手でも。

明日にはコロッと落ちてるかもしれないんだから。



「そっか」



ヤバい。

直感的に,そう確信する。

このにこりとした笑顔は,きっと。

私にとって,とても良くないものだ。

茉悧様の事など殆んど知らないが,きっと,そう。

これはきっと,茉悧様の,好奇心。

触れてはいけない,虎の尾……



「俺は花蓮の好きになる人が。その相手を前にする花蓮がどんな反応をするのかが。とても気になるよ。もっと言えば,そこまで言う花蓮が,すごく気になる」



危ない花のような人。

セクシーと言う言葉の意味を,私は唐突に理解した。



「キス1つ拒みそうな花蓮が,目を閉じたら……俺はどんな気分になるんだろうね」



くすくすと,不穏なことを言う。

冗談じゃないと,私はスカートをはたきながら立ち上がった。



「今日は……挨拶に伺っただけなので……失礼します……」

「うん,じゃあね」



潔い返事を背に,私は駆け出す。

来るときは気にした壺も,何も気にならない。

けれど人様の家を走るわけもいかないので,私は直ぐにゆっくりとした足取りに変えた。