澄ましたメイドのご主人様。

「恋……? そんなものが欲しいの? 変わってるね」



無性に腹が立つのは何でだろう。

きっと,普通の事を話しただけなのに,変わってる人にそう言われたからだと思う。

けれど,その普通が茉悧様に通用しないので,茉悧様は茉悧様で同じ心地なんだろう。



「……茉悧様の周りには……茉悧様に言い寄る女性の中には,心を求める方が1人もいらっしゃらなかったのですか?」



そんなこと,あり得るのだろうか。

こんな初恋製造器みたいなビジュアルで?

いくら私とは違う世界の人々とは言え,同じ人間。

美的感覚や心の作りは同じはずなのに……



「いたよ? でもその内離れていったし,俺がここまで生きる中で,それは欲しいと思うことのない感情だった」



その方々は全て無駄だと悟ったのだと,茉悧様の考え方を聞いて思った。

確かに,恋と言う感情はただ生きる上で必要ではない。

けれど,生まれる感情はそんな考えのもと押さえつけれる物じゃないはずなのに……

私の小さく落とした息を見て,茉悧様が口を閉じる。

私はしまったと,1つ謝罪した。



「いいえ,すみません。茉悧様は初めて恋をしても気づく事すら無さそうだなと。……茉悧様に好かれた人も,大変そうだなと想像してしまって」



日々,何を考えて生きてるんだろう。

茉悧様は,どんな人に恋をして,どう接するんだろう。

想像しただけでも,前途多難に思えた。



「花蓮は……正直なんだね。それに,俺が誰かに恋をすること,信じて疑わないみたい」