「へぇ、意外。まさか霧崎(きりさき)がSubだったなんて。俺は勝手に、霧崎もDomだと思ってたわ」

 なあ、みんな。同意を求めるように周りに声をかける谷坂は、調子づいてその場を仕切り始めた。しかも霧崎だけとか、面白いこともあるもんだな、と続けた谷坂は僅かに声を弾ませる。霧崎だけ。

 さらりと付け加えられた言葉に、え、と短い声が漏れた。え、の形に口を半開きにしたまま、徐に顔を上げる。クラスメート全員の視線が、俺に注がれていた。見下ろされている。立っている人からも、座っている人からも、男子からも、女子からも、見下ろされている。彼らよりも地位が下であることをまざまざと突きつけられた。立って同等の目線になりたくても、コマンドのせいで立てない。

 驚愕の目。憐憫の目。奇異の目。好色の目。ありとあらゆる感情を孕んだ目が、俺をじっと凝視していた。俺を下に見ていた。埃っぽい床に膝をついて座り込んでいる人など、俺以外に誰一人としていない。このクラスに、Subは自分だけ。自分しかいない。

「霧崎、せっかくだから、ちょっとだけ遊ぼっか」

 みんなの前で。へらへら、にやにや。緩み切った顔面のまま床を踏み、惨めに座り込む俺との距離をゆっくりと詰めてくる谷坂の言動からは、邪悪な気配しか感じられなかった。

 健全な遊びをするとは思えない。例え欲求を満たすためだとしても、衆目のある場所で、大して信頼関係の築けていないDomとプレイなどしたいわけがない。身を預けられるわけがない。そうだと頭では拒絶していながらも、俺の心は期待していた。