「謝らせて欲しくて来た。この間は済まなかった。君を、失うかと思って……気が動転してしまったんだ」
「い、いえ……私こそすみません。ええと……」

 ベッカーとの会話が思い出され、私は同じように頭を下げる。
 問題はこの後だ。私には彼に伝えたいことがある。

 せっかくこうしてわざわざ謝りに来てくれたのに、顔を合わせて早々こんなことを口に出すのは失礼に当たるだろうとか、仲がより気まずくなるかもしれないとか、色々な不安が頭をよぎる。でも、この機会に言えなければ、なんとなくずっと胸の中で持て余したままになりそうな気がして……私は踏ん切りをつけるように姿勢を戻すと、最初の一言を絞り出した。

「あの、ベッカーから殿下の小さい頃のお話を聞いたんです」
「む……」

 そんな前置きに殿下は反応を示し、固くなった顔の前で私は構わず続ける。

「傍に居た人が失われるのは、誰だって怖いですよね……。あの時、殿下が少しでも私の身を案じてくださったのなら、それはとても嬉しい。でも……それは私も同じなんです」