私、櫻月(さくらつき)紗梛(さな)はこの家の庶子だ。父は櫻月家の当主である忠良(ただよし)で、母はどこかの没落令嬢だったがこの櫻月家で女中として働いていてその時お手付きでできた子供が私……というわけだ。


「もう、モタモタしないでちょうだい。女学校に遅れてしまうわ」

「申し訳ありません」


 綾様には毎度違う嫌味を言われるけど、もう慣れた。仕方ない。悲しいとか寂しいとか辛いとか、そういう感情はとっくの昔に忘れてしまった。