『――ねぇ、さっちゃん』


 まだ、小さい私がお布団で横になっている母のそばにいた。


『なんですか?お母さま!』


 この頃、母はもう寝たきりでいつ命の灯火が消えてしまってもおかしくない状況だった時だ。そして私は何も知らない学ぶことが純粋に好きだった普通の女の子。


『さっちゃんにこれをあげるわ』


 起きるのも辛いだろうに押し入れの奥の方にあった木箱を取り出すと差し出した。


『お母さま、これはなんです?』

『これは、私のお母さん……さっちゃんにとってはお祖母様から譲り受けたものよ。これはね、とても大切なものだからみんなには内緒よ』

『お父様にも?』

『えぇ。それにね、これはきっとあなたを助けてくださるわ』


 そう言って母は微笑んだ。それに私は「わかりました」と答えて……それから一気に母は弱り亡くなってしまった。
 私は母に言われた通り、誰にも言わず隠し続けた――