「ですが――」


 旦那様がそう何かを言いかけたのだが、長宗我部様によって遮られる。


「紗梛さん、荷物を纏めてきなさい。私は、君の父君に話があるんだ」

「えっ……でも」

「大丈夫だ。すぐに終わる、さぁ行っておいで」


 長宗我部様が優しく諭すように言うと私はそれに従うしかなくて「……分かりました」と言った。長宗我部様と旦那様にお辞儀をすると、私はこの部屋から退室をした。
 そして、自室のある方へ向かっていると向こうからまるで鬼のようなすごい血相をして早歩きしてくるのがわかる……綾様だ。もう話を聞いたの?相変わらず早いのね、感心してしまうわ。


「……あんた、本当に生意気!」


 そう言って私の前に来ると、綾様は平手打ちで殴った。やっぱりそうなるわよね。


「お前みたいな下賤な娘が長宗我部様に求婚ですって……? ありえないわ、長宗我部様は私と間違えていらっしゃるのよ」


 綾様は一人でブツブツ言い出して「そうよ」と自分自身を納得させる。


「所詮、お前は私の身代わりなんだから立場を弁えなさい!」


 不機嫌が全開の彼女に反論しても意味がないことを知っている私は何も言わずそれを聞いていた。だが、それも気に障ったのか「何か言いなさいよ!」と言い私の肩を押した。

 そこは二つほど段があったからよろけそうになり倒れそうなのを抵抗するも地面はすぐそこだった。だけど、私は誰かに支えられて床に転ぶことはなかった。