「兄貴のことなんだ」

「一葉の?」

「そう」

「……」



カチ、コチ……と。時計の進む音が聞こえる。
街中の音が、交番の出入り口から制限なく入って来る。


というのに。


今、二人の目には、お互いしか映っていない。
さらには街の喧騒さえも、蚊帳の外だ。


そんな中。


勇運くんが、重たい口を開ける。

それは、彼がついさっき気づいた長年の――



「俺は、ずっと勘違いしていたのかもしれない。兄貴のことを」

「……」



コチ、コチ――



静かな室内に、尚も響き渡る時計の音。

その音に声をかぶせたのは、



「どうぞ、おかけください?」



真剣な顔つきをした、柴さんだった。