黒百合家へ里帰りした日から、数週間後。


「和葉、今日も顔色があまりよくないようだが…」

「そ…そうでしょうか?そんなことはないと思うのですが…」

「あまり無理はするな。つらかったら、すぐに休め」

「ありがとうございます」


和葉は、そっと胸に手を当てる。

そこには、着物に隠れて短刀が仕込まれていた。


『それで、あやつの心臓を一突きにしろ。小賢しい呪術よりも、こちらのほうが確実だ』


貴一から渡された短刀。


再び、唇に『眠毒ノ術』をかけるという会話は玻玖に聞かれていた。

しかし、その前に話していた短刀で直接玻玖を狙うという暗殺計画はまだ生きていた。


本当はすぐにでもこの短刀を捨てて、玻玖にすべてを打ち明けたい。


――しかし。


『もし、あやつを殺すのをためらったり、だれかに漏らすようなことがあれば…。そのときは和葉、お前の命をもって償え』