「まだ色々片付けないといけない問題はあるから、すぐにじゃないけど」

「はい。でも、私にまた彼氏が居るとか思わないのですか?」

「…彼氏、居るの?」

らしくなく不安そうな顔に、ちょっと笑ってしまう。

「いないですけど。でも、本当にいつもあなたはそうやって一方的。
昔から、本当に本当に強引で。
私、今大阪だし…。後一年くらいでまたこっちに戻れるかもしれないけど。
それに、中村部長のような御曹司と結婚するって、色々大変そうだし」

プロポーズされて飛び上がりたいくらい嬉しいけど、はい、とすぐに頷けない。

「俺、いつも十和子の前では余裕あるように振る舞ってたけど。
本当は、いつも必死で全然余裕なんてなくて…。
今だって、本当は必死で…。
お願いします。俺とやり直して下さい」

一瞬、耳を疑ってしまった。
今までの私が知っている中村春馬なら、絶対にそんな謙虚な事言わないだろう。

「俺は、十和子が好きなんだよ」

「今日は日帰りの予定で、夕方には大阪支社に戻らないとダメだけど。
週末、またこっちに来るから。
いつものあのバーに飲みに行きません?」

「え…ああ。なら、俺が大阪に行く」

「ううん。ポメ太郎が寂しがって鳴いたら可哀想だから。
私がこっちに来る」

「ポメ太郎…。それも美怜から聞いたんだ…。
俺が犬飼ってるとか柄にないって思うんだけど」

ちょっと恥ずかしそうに私から目を逸らす中村春馬に、胸がドキドキとした。
こんな表情も出来るんだな。

「春馬、私と結婚して下さい」

もっとこの人の見た事のない顔が見たくて、気付いたらそう口にしていた。


(終わり)