「…俺、そろそろ帰る」

事を終え暫くすると、呟くように中村春馬は口にした。
なんだかそれで、改めてこれは不倫なのだと思った。
この人は帰る場所があり、帰らないといけない。

ずっと見ないようにしていた中村春馬の左手の薬指の結婚指輪が、薄暗いこの部屋でも光っている。

「…そうだよね。奥さん心配するよね?」

「…そうじゃないけど…。
ま、とりあえず、帰る」

なんだか、事後だからか、先程燃え上がった時と違い今はお互い妙に冷めている。
まあ、今の私達は恋人じゃないもんな。
朝まで甘い言葉を囁きあったり、抱き合って眠る事なんてしないのが普通。

「見送らないから…。勝手に出ていって」

「鍵は?」 

「あなたが出て行ったのを確認したら、閉めに行くから」

「分かった」

中村春馬はベッドから出ると、床に散らばる自分の衣服を身に纏って行く。
ほんの少し、帰るのを躊躇ったりしてくれるのを私は期待していたのかもしれない。
けど、中村春馬はそんな素振りも見せず、私の部屋から出て行く。

「また明日会社で」 

その一言を残して。