巫女の代わりに美也を大事にするのではない。美也個人として見て、接しようと。

けれどもし――美也が前世の記憶や感情を持っていなかったとしても、美也の中に巫女が在るならば。

さきほどの、美也が知らないはずの言葉を、美也が知っていたことにもうなずける。

巫女がいたから美也がここにいる。美也がここにいるから巫女が生きた証となる。

無理に二人を切り離さなくてもいいのかもしれない。

巫女を愛していた自分と美也を愛している自分の気持ちは別物だと断じられるが、両方の気持ちを持っているのは榊という一柱でしかないのだから。

「美也……愛している。美也が俺への気持ちに名前がつくまで返事を求めたりしない。でも……一緒にいる未来を望んでも、いいか?」

「……~~~~~っっっ。榊さん、そういうの、今言うのは反則的です………」

「否定、ではないんだな?」

抱きしめたまま問いかけると、美也はむうとうなった。

「だって……私、言いましたよね? 榊さんのとこに来るのは、私には当たり前みたいな感覚だって……」

「ああ、聞いた」

その言葉を聞いたとき、榊は違和感を持った。榊が見てきた人間に、そういう感性を持った者がいなかったからだ。

恋愛感情があるかわからない相手のもとに、自分の意思で行くのを自然だと思っている……ということが。

家や親が決めた結婚相手のもとに嫁ぐしかない人間は多く見てきたが、美也はそのどれとも違った。

――榊のもとへ来るのが自然だったのは、美也の前世だ。二人の間で結婚の約束をし、周りにも話を広めている途中だった。

美也に前世の記憶がなくとも、前世の名残はあったのかもしれない。

榊が腕をゆるめると、美也は恥ずかしそうな顔で榊を見てきた。

「今、私も同じ気持ちです、って返せないお詫びって言うか……なんですけど……」

「うん?」

「榊さんへの気持ちにつく名前が、すき、だったら、いいなあって思います……」

かーっと頬を染める美也に、榊は、もうそれは好きなのではないか? と言おうとしたが、美也が懸命に自分の心と向き合ってくれているのもわかったので、「ああ」と答えるにとどめた。

美也の年齢からしても、返事をせかすものではない。

榊の言葉を聞いた美也は、安心した顔になる。

「それから――榊さんは私が幸せにします。私は榊さんがいてくれたら幸せなので、ずっと一緒にいて、退屈させませんから。ひゃ、百面相とか得意ですしっ」

言っている途中で恥ずかしくなったのか、美也は早口になって言い切った。