〇風早高校正門
  なぎさ、みなみ、芽亜里が歩いている。「風早高等学校」と書かれた正門。風早高校正門を出る。
  リムジンバスが止まっている。後藤正、30歳、リムジンバス後部座席横にいる。黒いスーツを着ている。
なぎさ「あ、後藤さんだ」
後藤「皆さま、お帰りなさいませ」
なぎさ「こんにちは」
みなみ「(お辞儀して)こんにちは」
芽亜里「後藤さん、こんにちは」
  後藤、リムジンバスのドアを開ける。
芽亜里「じゃあ」
なぎさ「ばいばい」
みなみ「ばいばい」
  芽亜里、歩いて行く。リムジンバスの横でなぎさ、みなみに向き、手を振る。なぎさ、手を振る。みなみ、手を振る。芽亜里、リムジンバスに乗る。後藤、ドアを閉める。後藤、運転席に行き、ドアを開け乗る。リムジンバス、出る。
なぎさ「じゃあ」
  みなみ、なぎさを見つめる。
なぎさ「ん?」
みなみ「なぎさ、顔に不吉の相出てるよ」
なぎさ「うそお」
なぎさ「やめてよ、みなみの占いあたるんだから」
みなみ「なんかやばいやつらに囲まれるよ」
なぎさ「まじー」
みなみ「うん。ひどいことされる。信じられないこと」
なぎさ「えー、どういうことー」
  みなみ、考え込む。
みなみ「うーん、よくわからない。本当に信じられないこと」
なぎさ「えー、こわあい」
みなみ「気を付けて」
なぎさ「うん」
  みなみ、去る。なぎさ、歩いて行く。

〇岩川公園
  人気のない公園。
  大きい岩があり、そこに「岩川公園」と彫り付けてある。
  沼があり、「底なし沼、危険」と立て札がしてある。柵はない。沼の近くにベンチがある。
  なぎさ、歩いている。沼へ行く。
なぎさ(ここ底なし沼って書いてあるけど、柵とかないんだよなあ)
  なぎさ、ベンチに座る。
なぎさ、モノローグ「私は帰りによくここにくる」
なぎさ、モノローグ「めったに人が来ることはなく、静かでいいのだ」
なぎさ、モノローグ「さっきのみなみの言ったことなんだろう」
なぎさ、モノローグ「信じられないことされるってー」
なぎさ「ん」
  さき、太った女子、金髪の女子、目つきの悪い女子、やってくる。いずれもセーラー服。
なぎさ「(なぎさ、大きく口を開けて)えー」
まぎさ、モノローグ「当たった。みなみの言ってたやばいやつらってあいつらのことだったんだ」
  なぎさ、ベンチから立つ。沼の前に立つ。さきたち、なぎさに近づいてくる。さき、なぎさと向かう。
なぎさ「何よお。まだ、ヘアアクセの売ってるとこ知りたいの。いったじゃん。これ、うちらでお揃いにしようって言ったから、ほかの人には言えないって。仕方ないでしょう」
さき「もうそんなもんどうでもいいよ」
なぎさ「え」
さき、太った女子、金髪の女子、目つきの悪い女子「ふっふっふっふっ」
なぎさ「な、なによお」
  さき、立て札を見る。
さき「ふうん、ここ底なし沼なんだあ」
さき「(なぎさに向かって)おい、ここに落ちろ」
なぎさ「(大きく口を開けて)えー」
さき「ここに落ちたら、許してやろう」
なぎさ「何言ってんのよ。これは、グループでお揃いにするから、ほかの子には教えられない。仕方ないじゃない」
さき「いいから落ちろ」
  太った女子、金髪の女子、目つきの悪い女子、なぎさにせまる。
なぎさ「え、本気?」
さき「安心しろ。柵はない。きっと安全な沼だ」
なぎさ「そういうこといってんじゃないわよ。そういう問題!」
さき「いいから落ちろ。それで許してやる」
なぎさ「はい、そうですかってなるかー」
さき「いやなれよ。それで許してやるっていってんの」
なぎさ「ええええええええ」
太った女子「いいから落ちとけ。そうすればまあ、許してやるから」
なぎさ「わ、わかったわよ。落ちればいいんでしょう。そのかわり、もう二度とうちらにからまないでよ」
  さき、黙り込む。
なぎさ「何よお」
さき「・・・・・・」
  さき、なぎさを見つめる。
なぎさ「何よお」
なぎさ「わかった、わかったから」
  なぎさ、沼に足を入れる。足が地につく。
なぎさ(よかった。浅い)
  なぎさ、両足を沼に入れる。なぎさ、振り向く。
さき「もっと進め」
なぎさ「ええええ、もういいでしょう」
さき「ちょっと足入れただけじゃないか。それに大丈夫そうだな」
なぎさ「うん、平気、平気」
さき「だったら進め」
なぎさ、モノローグ「しまった」
  なぎさ、沼を歩いて行く。
なぎさ(大丈夫。全然浅いよ。何が底なし沼よ。誰かのいたずらあ)
  なぎさ、突然沈む。
なぎさ「うわあ」
さき「どうした?」
なぎさ「助けて」
  なぎさ、沈んでいく。
なぎさ(何これ。足が動かない。まじ。本当に底なし沼だったんだあ)
なぎさ「助けて」
  さき、泣きそうな顔をしている。太った女子、金髪の女子、目つきの悪い女子、泣きそうになっている。
なぎさ「どうしたのよお。助けて」
なぎさ(どうしよう、どんどん沈んでく。なんで助けてくれないの。怖いの?)
  なぎさ、上半身だけ沼から出ている。
なぎさ「(大声)助けて!マジお願い。このままじゃ、沈んじゃうー」
  さき、恐怖にゆがんだ顔。
なぎさ「(大声)助けて」
  なぎさ、首まで沈む。
なぎさ(マジ、ありえない)
なぎさ「(叫ぶ)助けてお願い。助けて!」
  なぎさ、沈んでいく。なぎさ、片手をあげている。片手だけ、沼から出ているなぎさ。なぎさ、完全に沈む。

〇岩川公園・底なし沼の中
  なぎさ、沈んでいる。ごぼごぼ泡を吹いている。
なぎさ、モノローグ「うううう。息ができない。なんで助けてくれないのよ。うらんでやるううううう。でもどうしよう。どんどん沈んでいく。死んじゃうのかなあ。ああ、王子様と結婚したかったなあ」
なぎさ、モノローグ「このまま私はどうなるんだろう。結婚することもなく、死んでしまうんだろうか。それはやだ」
なぎさ、モノローグ「(大声で)ありえないいいい」